「大学受験時には、自分の未来像がまったく想像できていなかった。
理工学部経営工学科を選んだのも、漠然と“将来、世の中の役に立つことを幅広く学びたい”という程度の理由からでした」
栃木グランドホテルの代表取締役を務める若林可奈子さんは快活に笑う。そんな彼女だが、後の自分に強い影響を及ぼした、印象深い授業があるという。
「一つはビジネスゲーム。4人のグループで起業し、現実の企業経営を模したモデルを設定して意思決定を行い、業績を競う演習です。もう一つは経営者の特別講演。世の中の仕組みや経営に対する好奇心に火が付き、夢中で聞き入ったことを思い出します」
卒業研究のテーマは『都市ゴミ処理施設排熱の地域エネルギー利用システムの評価』。
「環境思想を取り入れたまちづくりに強い興味があり、就職活動ではシンクタンクを受験したのですが、面接時の担当官に『あなたの希望を実現するには公務員がいいんじゃないか』と言われました。当時は、どんな職業に就けば自分のやりたいことが実現できるのかがわからなかったんですね」

卒業後は、株式会社リクルート、盛岡のホテルを経て、2002年に家業である栃木グランドホテルに入社。ホテルウーマンとして活動するかたわら、市と市民が協働する催しに積極的に参加し、女性ならではの視点を生かして「お蔵の人形巡り」「とちぎの雛まつり」などの企画を成功させた。
「一般に“まちづくり”というと、いかに観光客を呼ぶかという外向きの発想になりがちですが、私は、まず地元の人たちが楽しめることが大切だと思ったんです」
さらに若林さんは、映画やドラマ、CMのロケ地誘致を支援する「とちぎえ~ぞ~支援隊」を組織し、テレビドラマ『JIN-仁-』や、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』などの地元撮影を実現させる。ロケスタッフなどの来訪者が増えたことで、ホテルの宿泊客も増えた。今、若林さんが目指すのは、北海道富良野市だ。
「富良野は『北の国から』で一躍有名になったけれど、今では富良野の自然や風土そのものが魅力的な観光資源になっています。栃木市も、例幣使街道や見世蔵、巴波川の舟運など、情緒ある江戸文化を今に残す町。全国の皆さんに“一度は訪れてみたい”と思ってもらえるような、そんな街にしていきたいんです」
最後に、現在の理科大生にメッセージをお願いした。
「自分自身と徹底的に向き合う時間を、学生時代にたくさんつくってほしいですね。自分は何をしている時に最も生き生きとしていられるのか、とことん突き詰めてみてください。きっと自分にしかできない仕事が見付かるはずです」