Interview

本学で活躍する女性教員の紹介

Interview17
「好きを極めること」と「人の縁」が
研究の道を拓いてくれた
山内閑子 教授
東京理科大学 先進工学部 機能デザイン工学科
2001年 武蔵野美術大学 造形学部 建築学科 卒業。2003年 早稲田大学大学院 理工学研究科 建設工学専攻 修士課程 修了。2008年 武蔵野美術大学大学院 造形研究科 博士[後期]課程 造形芸術専攻 環境形成領域単位取得満期退学。その後、寝具メーカーで福祉機器の企画開発に携わりつつ、福祉用具に関わる産官学のプロジェクトにも参加。2022年より産業技術総合研究所 主任研究員となり、介護テクノロジーの開発プロジェクトに従事。2025年9月より現職。博士(造形)
※本ページに掲載されている肩書、所属は取材当時のものです。

 

 

建築の道に進んだきっかけは?

子どもの頃から絵を描くことが大好きで、それを生かせる分野を探しているときに建築を勧められ、興味を持ちました。日本では建築といえば理工学部。高校では理系コースを選びましたが、数学が苦手で苦戦していました。そんなとき、美術大学でも建築が学べると知り、得意な美術を生かして挑戦しようと決意。美術系の予備校に通い始めました。予備校での経験がとても楽しく、「これこそ自分の居場所だ」と感じて美大に進学しました。ただ、それまでの理系の勉強も無駄ではなく、分野を変えたことで視野が広がったと思います。

 

早稲田大学の修士課程に進んだ理由は?

建築分野は4年間では学びきれないと思い、大学院進学を漠然と考えていました。入試ではやはり数学に苦戦しましたが、設計課題でアイデアを形にする力を評価していただき、意匠系の研究室に進むことができました。研究室では「理論と実践の両輪」の方針を大切にしていて、まさにその両方を身をもって学ぶことができました。ただこの頃は、研究者になるという考えは全くなく、設計やデザインをしたいという思いが強かったですね。

大学院では、重度障害のある少女のための「地域の拠点となる住宅」を設計するプロジェクトに参加。ご本人や家族、支援者と共にプロジェクトを進める中で福祉分野への関心が深まり、これが現在のキャリアに繋がる重要な経験となりました。

 

その後、博士課程に進んだ経緯は?

当時は就職難で、女性にはさらに厳しい時代でした。それでも実務経験をしたいと思い、商業建築の設計事務所に就職。ところがそこは、朝から深夜までの過酷な労働環境でした。もともと「人の生活を支えたり、潤いを与えたりするものづくりがしたい」と思っていたのですが、「自分の生活さえ成り立っていない状況で、人の生活を豊かにする仕事はできない」と感じ、その頃新設された、母校の博士課程に進むことを決めました。
博士課程では福祉デザインをさらに深めようとしましたが、知識不足を痛感。大学院に通いながら国立障害者リハビリテーションセンター研究所にも通い、リハビリテーション工学や支援機器について学びました。

 

その後は企業に勤務されていますね。

自分がデザインしたものを世に出し、人の役に立てたいという思いから、フランスベッドメディカルサービスに就職し、福祉用具の開発やメディカル事業に携わりました。
新しい企画にどんどん挑戦させてくれる恵まれた環境で、楽しくて14年も勤めました。博士課程時代にお世話になった研究者と福祉用具の共同開発プロジェクトを会社に提案し、実現できたのもこの頃です。これまでの人とのつながりが、キャリアを広げてくれたと感じています。

 

会社員時代に得たものは?

商品やサービスの開発に携わりつつ、産官学の研究プロジェクトにも参加し、理論と実践の両輪を経験できたことは大きな成果でした。
一方で、良い製品を作るだけでは利用者に届かないという現実を知りました。製品をどう伝え、どう届けるか。営業や流通を含めたプロセス全体を考える重要性を学びました。モノを作るだけでなく、「使われるまでの仕組みをデザインする」という、より広い視点を得られたと思います。

 

14年務めた会社を辞め、40代で転職されていますが、思い切った決断ですね。

コロナ禍を経て世の中が大きく変わったことがきっかけです。多くの企業が短期的な利益追求に偏り、5年後、10年後を見据えたものづくりが難しくなってきていました。「ちょっと立ち止まって考えたい」と思っていたときに、産業技術総合研究所の公募が目にとまりました。介護テクノロジーに関するプロジェクトの研究者を募集していて、これまでの経験が生かせると思い応募しました。40歳を過ぎての転職でしたし、5年間の任期付きでしたが、なんとかなるだろうと。私はスーパーポジティブなんです。
研究所での仕事は楽しくて、このまま研究を続けたいという思いが強まった頃、ご縁があって東京理科大学に着任することになりました。

 

これまでを振り返って、何が今の自分へと導いてくれたと思いますか?

人のご縁ですね。好きなことを極めていく過程で、いろいろな方に支えられてきました。デザインは一人ですべてが完結できるわけではありません。ユーザーをはじめ、開発者、製造者、届けてくれる人……、世の中を少しでも良くしようと思う人たちのゆるやかなつながりに支えられて、好きなことをやらせていただけることにとても感謝しています。

 

やりがいを感じる瞬間は?

開発した機器やサービスが利用者に喜ばれるときです。また、大学院時代から大切にしてきた「理論と実践の両輪」の一環で、会社員時代も論文は書き続けてきたのですが、発表から何年も経ってから「論文を読んだ」「一緒に何かやりたい」と連絡をいただくことがあります。商品は廃番になれば消えていきますが、論文は自分の考え方を残すことができ、未来の誰かの役に立つかもしれない。そこに大きな価値を感じています。

 

壁にぶつかったときは?

困難はいつでもあり、うまくいくことばかりではない。もし壁にぶつかったら、覚悟を決めて、その時々でベストな選択をしていくしかないと思っています。
その時は壁だと思っていても、何年か経つと壁じゃなくなることもある。「すごく高い壁だと思っていたけど、迂回したらいつの間にか越えていた」ということもあります。時には迂回するのもありだと思います。

 

学生との関わり方について意識していることは?

着任したばかりのため、本格的に学生と関わるのはこれからですが、とても楽しみにしています。私自身、大学時代にいろいろな先生方に支えられました。同じように、学生が自主性を発揮できる環境を整え、視野を広げる場や情報を提供していきたいと思っています。

 

プライベートの過ごし方は?

書道と金継ぎにはまっています。金継ぎは、博士課程の進学祝いに友人からもらったお茶碗が震災で割れてしまい、それを直したいと思ったのがきっかけです。修復しながら新しいものを作り上げていくプロセスは、デザインの仕事とも共通する部分が多く、とても面白いんです。週末はたいてい、黙々と金継ぎの作業をしています。

 

今後の目標は?

現在、ISO(国際標準化機構)のワーキンググループでコンビーナを務め、各国の専門家の議論をまとめています。大きなチャレンジですが、ここで得たグローバルな視野を、今後の研究に生かしていきたいと思っています。

 

次世代の研究者へメッセージをお願いします!

自分の好奇心に素直に、自分の心に響いたものを大切にしてほしい。自分で限界を決めず、広い視野でいろいろなことに取り組んでほしいと思います。
研究は、日常生活の何気ないことから生まれたり、異なる価値観の人との出会いから広がったりします。分野にとらわれず、ぜひ多くのことに挑戦してください。

 

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