Interview

本学で活躍する女性教員の紹介

Interview12
研究することは、
私にとって生きることそのもの
伊藤 香織 教授
東京理科大学 創域理工学部建築学科
東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。一級建築士。東京大学空間情報科学研究センター助手、東京理科大学講師、同准教授を経て、現在同教授。専門は、都市空間の解析及びデザイン。特に公共空間と都市生活の関わり方に着目する。2002年より東京ピクニッククラブを共同主宰し、国内外の都市で公共空間の創造的利用促進プロジェクトを実施する。シビックプライド研究会代表として『シビックプライド』『シビックプライド2国内編』(宣伝会議)を出版。

先生が研究者の道に進まれた経緯を教えていただけますか?

大学進学の時点では、明確な将来のイメージはありませんでした。ただ、モノづくりは好きだったので、進むなら工学部だなと思っていました。その中でも2つ候補があって、1つは建築系、もう1つは情報系でした。なかなか1つに決められずにいましたが、東京大学なら2年間教養学部で学んだ後に専門の学部を選べばいいと知り、「今すぐ進路を決めなくてもいい」という単純な理由で東京大学に進学しました。

ところが、2年経っても専門を決めかねて、迷ったまま建築学科に進みました。

しかし、その後大学院に進み、博士課程修了後に、東京大学空間情報科学研究センターの助手になり、名称通り空間と情報と両方を扱う研究に携わるようになりましたので、「結局、情報に行っても建築に行っても同じところに来たのだな」と不思議な気持ちがしましたね。

 

大学院に進学されたきっかけや経緯を教えてください。

研究も設計も好きでしたので、修士課程に進学しました。修士2年生の頃、同級生の多くは就活をしていましたから、私も少しは就職を考えたのですが、自分に正直になってみると、全く就職する気がないことに気づきました。

ちょうどその頃、地理情報システム(GIS)という新しい技術が建築の研究室でも使われるようになってきていました。GISを使えば、都市空間やそこで起こる様々な現象をデータで記述し、分析することができます。学部の頃は、建築学というと各自の経験と知識に基づいた、ある意味職人的な設計の善し悪しが問われるように感じていました。GISの登場によって、今で言う地理空間ビッグデータのような大きなデータによる定量的な分析と、モデル化による抽象的・質的な議論とを繋げられるようになった。それが単純に楽しくて、いつの間にか研究の道に進んでいました。私の場合は、空間に時間の次元を加えて、都市の新陳代謝をデータで明らかにすることに興味を持ち、大学院での研究に取り組んでいました。

 

今の研究内容を教えてください。

1つの柱としては、都市で起こっている現象や都市生活の中から生み出されるものをモデル化し、データによって解析するという研究です。これについては、大学院生の頃から取り組んでいる通りです。

2つめの柱は「シビックプライド」に関する研究です。シビックプライドとは「都市に対する市民の誇り」という意味ですが、市民自身がかかわることでまちがより良くなっていく、その当事者となる自負心を意味しています。19世紀のイギリスで生まれた概念ですが、この概念や実践を追求するためにシビックプライド研究会を発足。2008年と2015年には『シビックプライド』『シビックプライド2』(宣伝会議刊)という本も出版しています。近年、全国でシビックプライドを重視した都市政策を掲げる地域が急速に増えています。

そしてもう1つの柱は公共空間のあり方に関する研究です。広場や街路の見た目の美しさはもちろん大事なのですが、ただ美しいだけで、人が心地よく感じない、そこで過ごす人のいない空間では意味がありません。私は、都市空間は人の人生の美しい舞台になってほしいと思っているので、ハード、ソフト両面から公共空間の在り方を研究、提案しています。

3つめの研究の柱と関連するのが「東京ピクニッククラブ」という活動です。多分野のクリエイターと一緒に2002年に始めました。ピクニックというと、研究とは関係ない趣味的なものと思われるかもしれませんが、私はこれを都市の問題でもあるととらえて取り組んでいます。

日本ではピクニックは“家族で少し遠出をして野外で食事をする”というイメージが強いのですが、ピクニック発祥のイギリスを中心に歴史を紐解いていくと、食や話題を持ち寄る大人の社交であったことがわかります。

そうした歴史も踏まえつつ、私たちは、公園など都市の公共空間で、現代の社交としてのピクニックを提案しています。しかし、現代の日本の都市の公園では、芝生内は立ち入り禁止だったり開園時間が短かったり、何かと制約が多い。

公共公園(Public Park)というのは、近代都市の装置で、集まって住んでいるからこそ必要とされる空間なのですね。都市居住者には公園を使う権利があるわけです。そこで、「ピクニック・ライト=ピクニックする権利がある」と主張し、公共空間のあり方について問題提起もしています。と同時に、本来の公園の使い手である都市生活者も、もっと柔軟にクリエイティブに公園の使い方を考えていく必要がある。国内外の都市から依頼をいただくことも多く、ピクニックワークショップを開催して、ピクニックの楽しさや、それぞれの地域ならではのピクニックを一緒に考え、実践する活動もしています。

 

キャンパス内でもよく伊藤先生がピクニックをされている風景を見かけます。

野田キャンパスの中庭が芝生広場になったので、気候の良い日には敷物を敷いて、学生と交流したり、ときには授業をしたり、仕事していることもありますね。ピクニックの風景を美しく見せるためには、道具も重要です。そこで集めているのが、イギリスのアンティークのピクニックセット。今、140点ほどコレクションしていて、どうやらこれは、世界一のコレクション数のようです。

 

とても楽しそうですね! 今後、研究者として目指したいことを教えてください。

研究を続けて、人をわくわくさせるようなもの・こと・概念を提示したいですね。最近は国や自治体の仕事、学会活動などで忙しく、研究の時間が確保しづらいのが悩みです。

 

今後研究者を目指す女性たちへの助言があればお願いします。

研究は楽しい。それに尽きますね。

「この研究で地球を救える」とか「街の課題を解決する」というような、何の役に立つのかはもちろん大事なのですが、私は自分がやっていて楽しいということが一番のモチベーションになってきました。

「あなたにとって研究とは何ですか」と聞かれたら、「仕事」とも少し違うし、かといって「趣味」でもない。研究することは、私にとって生きることそのものなのです。

もし、研究者の道に進むかどうか迷っているなら「楽しいからこっちにおいで」と言いたいですね。

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