Interview

本学で活躍する女性教員の紹介

Interview13
数学で世の中の課題を解決したい
それが研究の動機
胡 艶楠 (こ えんなん) 講師
東京理科大学 理学部第一部応用数学科
中国東北部遼寧省出身。東北大学(遼寧省)卒業。2013年に名古屋大学情報科学研究科博士前期課程計算機数理科学専攻修了、2016年に同後期課程計算機数理科学専攻短期終了。2016年~2020年まで同大学助教。2020年4月より東京理科大学理学部第一部応用数学科講師。

先生のご専門を教えてください。

様々な形のパーツを隙間なく並べていくテトリスというゲームがありますよね。テトリスのように、たとえば輸送用のコンテナに荷物をいかに隙間なく効率的に積み込むかを考えたり、トラックで複数の地点を回って荷物を運ぶ場合の最短ルートを考えたりすることを「組合せ最適化」といいます。私の研究は、実社会の様々な問題を組合せ最適化で解決することです。

 

具体的に、「組合せ最適化」でどのような問題を解決されてきましたか?

たとえば、通勤バスとシェアサイクルを組み合わせた通勤の最適化を研究しました。これによって、企業は社員に支払う通勤交通費を削減でき、公共交通機関を使用することで環境負荷の軽減にもつながります。

学生の例では、アルバイト先の塾の講師のシフト表や、複数の観光地を効率良く巡回する旅行ルートなどを「組合せ最適化」によって導き出した例があります。

これらの例のように、身近な問題を数学で解決できるところが「組合せ最適化」のおもしろさだと思います。

 

先生はどのような経緯でこの分野に興味を持つようになったのでしょうか。

私は子どもの頃から数学が好きで、数学で世の中の問題解決ができないかとよく考えていました。東北大学(遼寧省)の、日本でいえば情報系の学部に進学し、プログラムやアルゴリズムに興味を持ちました。大学卒業後ももっと深く学びたいと思い、留学を考えました。最初はアメリカ留学を考えていましたが、日本好きの友人の影響を受け方向転換。日本語を勉強して、アルゴリズム論で著名な先生がおられる名古屋大学に留学をしました。ここで「組合せ最適化」に出会ったのです。まさに数学で世の中の問題解決をするこの学問にとても興味を持ち、この研究をずっと続けたいと思いました。

 

就職しようかどうか迷ったり、国に帰ろうと思ったことはなかったですか?

研究者の道を選ぶことで迷ったことは一度もないですね。好きな研究をずっと続けられるのですから。

理科大での働く環境にはとても満足しています。周りの先生たちは優しくて、研究に関するコメントはもちろん、生活の面についても助言をいただいています。学生たちも勤勉で、研究においても刺激がある発言をよくもらいます。中国に帰ることについて、今のところは考えていません。学問は国境を越えてできるものですので,今までに中国の学者との共同研究を行っていますし、留学希望の学生の相談も乗っています。些細な力でも、中日関係に学者として貢献したいと思います。

 

名古屋大学で助教をされて、今は東京理科大学で講師をされていますが、今のお仕事についてどう思われますか?

講師として自分の研究室を持ち、自分の学生も持つことができたことでとてもやりがいを感じています。理科大の学生はとても積極的で自分から次々とアイデアを出してくれるので、私もとても刺激になります。

私が学生だった頃、自身の考え方や論文の書き方が、指導教授のそれに自然と似てくると感じたことがあります。私の学生たちも、最初は添削が必要でしたが今では最初からきちんとした論文を書けるように育ってきました。大変うれしく思いますね。コロナでしばらく海外に行けませんでしたが、今後はどんどん海外の学会でも発表してもらいたいと思っています。

 

プライベートと仕事はどのように両立されていますか?

2016年に結婚し、昨年(2023年)10月に出産。生後3カ月の子どもがいます。まだ保育園に入れないので夫と交代で子育てをしながら仕事と両立しています。

大学側では、担当する授業や卒論指導の本数を減らしてくれるなど配慮をしてくれて助かっています。夫は別の大学で研究者をしていますが、一般的に男性には子どもがいるからといって仕事量を減らすなどの配慮はありません。育児の負担は女性にも男性にもありますから、男性にも配慮があればもう少し働きやすくなるのではと思います。

 

今度の目標を教えてください。

組合せ最適化問題は、厳密な答えを出すことが非常に難しいことが知られています。そのような中で最も汎用的に使われている解法が、「整数計画ソルバ」です。しかし、この解法でも解けない最適化問題はたくさんあります。「整数計画ソルバ」に代わる解法を見つけることが私の目標ですね。

教育面では、学生がここで学んだ知識を活かして社会で活躍してくれることが目標です。名古屋大学の助教の時に、最適化問題でベンチャーを立ち上げた学生がいます。彼のような人が理科大からも出てくれると嬉しいですね。

 

今後研究者を目指す女性たちへの助言があればお願いします。

日本と同様、中国でも理数系に進む女性は少ないですが、やはり女性は理数系が苦手だという思い込みを持つ方が世の中には少なくないです。その壁を越える必要があると思います。

研究者の仕事は、家庭と両立するのが難しいのではと思う女性も多いかもしれません。しかし、授業や試験のときは時間の制約がありますが、研究者の仕事の大部分を占める研究は、自分で時間の使い方を決められます。案外両立はしやすいことを知ってほしいです。妊娠や出産ではどうしても女性への負担が重くて,両立は大変なこともありますが、女性研究者が増えれば、声を挙げて環境を変えていくことができます。ぜひ果敢に挑戦してほしいですね。

 

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