Interview

本学で活躍する女性教員の紹介

Interview08
今やりたいことを大切に
一生懸命やっていれば必ず結果はついてくる
張替 涼子 准教授
東京理科大学 教養教育研究院 神楽坂キャンパス教養部
2001年慶應義塾大学文学部 卒業。2003年慶應義塾大学文学研究科前期博士課程を修了し、修士号取得。慶應義塾大学文学研究科後期博士課程単位取得退学を経て、2006年よりオクスフォード大学 文学研究科 に留学し、2010年に博士号を取得。東京大学、慶應義塾大学、中央大学等で非常勤講師を務め、2016年に東京理科大学理学部第一部に講師として着任、2021年より現職。専門は、近世スコットランド文学、書物学。

先生の研究内容について教えてください。

主に近世スコットランド文学と書物学の2つを柱としています。とくに、16世紀に執筆された歴史書を中心に扱っています。それまでの書物にはラテン語が使われることが多かったのですが、この頃から自国語が使われるようになってきました。さらに印刷技術も導入され、これまでとは比較にならないほど広く書物が普及しました。そのような時代に自国の歴史書を執筆した作者はどのようなことを意識していたのかを明らかにするとともに、それらの歴史書に残された当時の読者による書き込みなどを調べることで、実際にこれらの歴史書がどのように受容されていたのかということも考察しています。

慶應義塾大学文学研究科にて修士号を取得し、博士課程を単位取得退学された後にオクスフォード大学で博士号を取得されています。その経緯を教えていただけますか。

修士課程に進んだのは、指導教授のゼミで多くのことを学び、仲間たちと時間を忘れて議論する毎日があまりにも楽しく、もうしばらくアカデミックな世界を楽しみたいという単純な理由からでした。ゼミでは代々の先輩方とのつながりも強く、私が大学院進学を考えていると打ち明けると、英作文の指導など親身になってサポートしてくださいました。自分には大学院進学なんて無理だろうと思っていたのですが、指導教授と先輩方のおかげで実力がついていくのがわかりました。

オクスフォードへの留学も前もって計画していたわけではありません。いずれ留学したいとは漠然と思っていましたがもともと語学の能力にも自信がなく、また自分が研究するテーマも決めきれていなかったことから、留学をなかなか具体化することができませんでした。

ところが、ある論文集の中に、まさに私がやりたい研究はこれだ!と思う論文を見つけたのです。サリー・マップストーンというオクスフォード大学の先生が書いた論文で、この先生のもとで学びたい!と思いました。しかし、現実にはオクスフォードに留学できるような自信も実力もありません。おそるおそる指導教授に相談したのですが、「いいじゃない、やってみたら」と背中を押してくださって。「私でも挑戦してみていいんだ」と思ったことを今でも覚えています。指導教授のあの一言がなければ、私の人生は全く違ったものになっていたかもしれません。

この頃もう一つ、人生における大きな選択をしました。結婚をすることにしたのです。この選択についても、指導教授は応援してくださいました。研究者としてのキャリアが全く無い状態で結婚し、留学するというのは珍しいことかもしれません。でも、研究者はいずれ、キャリアの選択を迫られるでしょうから、あまり考える暇もなく結婚に踏み切れたのはよかったのかもしれません。

結婚生活と留学生活の両立はどのようにされたのでしょうか。

2006年8月から英国に留学しました。オクスフォード大学は1ターム(学期)が8週間しかなく、その間に指導教授と面談できるのも1〜2回です。限られた時間の中で成果を出していかなくてはなりませんから、死に物狂いで勉強をしました。1タームが終わると帰国して1カ月ほど日本で夫と暮らし、また大学に戻る、という生活を繰り返しました。2009年12月に博士論文を書き終えましたが、同期では一番早い博士論文の提出でした。とにかく早く終わらせなければという気持ちがあったのでがんばれました。

帰国後の仕事のことは考えていましたか?

それが全く考えていませんでした(笑)。目の前のことを一生懸命やっていれば必ず結果はついてくると信じていました。ところが、2010年の帰国当時は就職難でしたし、私の分野では、大学で非常勤として働くにも2年以上の教職経験が求められる場合がほとんどでした。途方にくれましたが、ゼミの先輩が声をかけてくださり、2010年4月から非常勤講師として働き始めました。その後、母校のほか東京大学や中央大学など様々な大学で非常勤講師の仕事をいただき、経験を積むことができました。

そんな折、2013年に長女を出産。妊娠中から出産後は体が辛くてしばらく就活もできず、「このままキャリアを断念するのかな」と思ったこともあります。そんなとき、東京理科大学の公募を見つけました。まだ子どもが小さいし無理かなと思いつつ、チャレンジしてみました。

子育てと仕事とはどのように両立してきましたか?

子どもは2人とも2歳までは保育園に預け、3歳からは幼稚園に預けています。幼稚園は保育時間も短く、お休みも多いので、自治体のファミリーサポートなどを利用してなんとか乗り切ってきました。夫も家事の分担や子どもの送迎など協力をしてくれています。上の子は9歳になりましたが、下に4歳の子がいるのでまだまだ奮闘中です。

今後の目標は?

ここ数年、育児と校務が忙しくて研究活動がほとんどできていないので、研究をとにかく進めたいですね。学生の皆さんに対しては、私がかつて指導教授からしていただいたように、学ぶことの楽しさを伝えたい。「これを学びたい」という気持ちをできる限り応援したいと思っています。

これから研究者を目指す方々にアドバイスをお願いします。

自分にはハードルが高いと思ったとしても、面白そうとか、少しでも興味があることは、身構えずにとりあえずチャレンジしてみてほしいですね。がんばっていれば、必ず助けてくれる人、引き上げてくれる人が現れます。

私はこれまでずっと、指導教授や諸先輩方に助けていただいてきたおかげで今があります。幸運だったと思いますが、そういう人間関係を作る努力もしてきました。たとえば感謝の気持ちを忘れないことや、先生や先輩にしていただいたことを後輩にして恩返しすること。そうやって感謝をつなげていく。一つひとつの出会いを大切にし、誠実に努力を続けていれば、きっと道は拓けると思います。

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