Interview

本学で活躍する女性教員の紹介

Interview03
ひたむきにチャレンジしていれば、
必ず誰かが見ていて応援してくれる
瀬木 恵里 教授
東京理科大学 先進工学部 生命システム工学科
岐阜県生まれ。1994年京都大学薬学部卒業。2000年京都大学薬学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、京都大学大学院 医学研究科 神経細胞薬理学 助教を経て、Yale大学 精神神経薬理 博士研究員に(2005-2008)。帰国後、京都大学大学院 薬学研究科にて特定准教授を務めた後、2015年より東京理科大学基礎工学部 生物工学科 准教授に着任。2021年より現職。

先生の現在の研究内容を教えてください。

うつ病の治療のメカニズムを解明しようとしています。うつ病の治療にはセロトニンやノルアドレナリンを増やす薬の開発が行われてきましたが、最近では、うつや不安といった神経・精神疾患は海馬の機能不全によっておこるのではという考えが提唱されています。海馬の機能変化と行動寄与を解明することで、新しい抗うつ治療法や治療薬の開発につなげることを目指しています。

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ここに至るまでどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。

岐阜県の飛騨高山に生まれ、自然豊かな環境で育ちました。高山市には大学がないので、大学進学=家を出て独立すること。自分がどの道で食べていくかということは早くから意識していました。高校のキャリア教育の一環で、理系の研究者の方の講演を聴く機会があり、「自己裁量で自分の好きなことを自分のペースで追求できる」という研究者の生き方に憧れを感じました。また、当時注目され始めたバイオテクノロジーの世界に夢を感じました。

京都大学の薬学部に進学し、馬術部に入りました。馬術部は大変印象深くて、ここでその後の人生につながる2つのことを得ました。1つは、馬という生き物と毎日触れ合ったことです。朝晩の馬の世話は大変でしたが、今思えばそれが、現在の生命システム工学という分野につながる原点になったと思います。

もう一つは、馬術部で他学部の先輩後輩たちと知り合えたことです。大学院で学ぶ先輩や海外留学をされる先輩も多く、研究者として歩むべきキャリアパスを早くから意識することができました。

先輩たちの影響で、博士課程はマストだと思っていましたが、当時も今も、女性で博士課程まで進む人は少数派。「早めに教授に相談したほうがいい」と先輩に助言され、指導教授であった市川厚先生、直接の指導教員であった杉本幸彦先生におそるおそる相談すると「ぜひ行くべきだ」と、とても喜んでくれました。これには大変勇気づけられました。

学位取得後は、京都大学大学院 医学研究科でポスドクとして3年間、助教を1年半しながら研究者としての経験を積みました。しかし、まだまだ自分は未熟だと思っていましたし、将来の展望は見えず、この頃が一番精神的に苦しかったかもしれません。

当時、恩師の一人である成宮周先生に何度も言われたのは、「与えられたテーマを研究するのではなく、自分の研究テーマを探しなさい」ということ。いつまでも先生のもとにいたのではいけない。旅に出よう。海外で自分の研究をやろうと決意しイエール大学に留学。ここで約3年間、Ronald Duman先生のもとで今につながる精神疾患・うつ病のメカニズムの研究に従事しました。

留学はしたものの、帰国後戻るところがあるかというのが一番の不安でした。が、ありがたいことに、出身の研究科が寄附講座という形でポストを用意してくれました。そこでは3人くらいのグループで、出身研究室の中山和久先生に見守っていただきながら、小さいながらも独立して自分のテーマで研究をすることができました。その後は求職活動をし、縁あって東京理科大学に着任。ようやく落ち着いて研究できる環境になりました。

その間、ワークライフバランスはどのようにされたのでしょうか。

留学する前に結婚し、帰国後、36歳のときに出産しました。ちょうどいろいろなライフイベントが集中して大変でしたね。でも、留学中、育児と研究を両立している研究者が身近にたくさんいたので、不安はありませんでした。男性上司も、子どもの面倒を見るために3時とか4時には帰ってしまうのが当たり前。「あんな感じで気楽にやればいいんだ」と励まされました。

ただ、働き方は大きく変えました。「家事育児と仕事を両立し、体を壊さないこと」が一番大事だと決め、無理をしないことを自分に課しました。

夫は大変協力的でしたが、私が東京理科大学勤務となってからは、夫は関西に残り、私と小学校1年になった子どもは東京という2重生活になりました。子育てと研究の両立のため、大学の近くに家を借り、仕事は学童保育が終わる7時までと割り切りました。子どもがいることは大変ではありましたが、そのおかげでオンオフの切り替えになり、体を壊すことなく続けられました。家族は心の支えですね。今は、夫も転職して東京に移り、家族3人がそろって生活できるようになりました。

今後の瀬木研究室で目指すことは?

学生と一緒に成長できる研究室でありたいと強く思っています。学生の成長が研究成果にもつながりますし、自分の成長にもつながる。そういうスタンスで今後も続けていきたいですね。

これから研究者を目指す女性たちにメッセージをお願いします。

理科大は研究者が大変働きやすい環境です。教員同士がフラットな関係で風通しがよく、研究者それぞれのやり方を尊重してくれる文化がある。事務方もとてもサポーティブでありがたいですね。

研究者という道については、「先がどうなるのか見えづらい」と不安視する声もありますが、どんな道に進んでも、先のことなんてわからないのが実際ではないしょうか。どうせわからないなら、自分の納得した道に進んでみたい。それに尽きます。簡単な道ではないかもしれませんが、いろんなところとつながり、ひたむきにチャレンジしていれば必ず誰かが見ています。時に、先が見えないと怖気づくことはあるかもしれません。でも、勇気を持ってひるむことなくやりたいことに向かって突き進む人は、必ず誰かが応援してくれる。決して見捨てられはしないよと言いたいですね。

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