Interview

本学で活躍する女性教員の紹介

Interview04
研究者の道に決まったキャリアパスはない 
自分なりの道を切り拓けばいい
萩原 明 准教授
東京理科大学 理工学部応用生物科学科
1999年 慶応義塾大学理工学部応用化学科卒業。2004年 総合研究大学院大学生命科学研究科生理学専攻博士課程修了。京都大学大学院で助手を務めた後、ハーバード大学分子細胞生物学部に博士研究員として3年半務める。その後山梨大学で助教、講師、准教授まで勤め、2021年より現職。

先生の研究内容を教えてください。

専門は神経科学です。私たちの脳の中には無数の神経細胞があります。その神経細胞同士が情報を伝達し合うことで、外の様々な情報が脳に伝えられ、脳の中で情報処理を行って、その結果再び行動として外に出力されます。その際、神経細胞がどのように情報伝達をしているかを調べています。神経細胞の情報伝達部位のことをシナプスというのですが、実は私はシナプスが大好きなんです(笑)。シナプスは、大きいもの、小さいもの、興奮性、抑制性、伝達する情報量の多い、少ないなど様々。人間の感情や行動は千差万別ですがそれ以前にシナプス自体が千差万別なんです。それが面白くて、ずっとシナプスを観察してきました。

先生は最初から研究者を目指してこられたのでしょうか。

研究者になろうとは思っていませんでした。ただ、私はとてもしつこいんです(笑)。シナプスや神経のメカニズムのことを知りたい、まだまだ知らないことが多すぎるという思いで研究を続けてきました。積極的にキャリアを築こうというよりは、知りたいという思いで突き進んできた感じです。

修士のとき、就活もしましたが、もう少し神経系の勉強がしたいという気持ちのほうが強く、岡崎の自然科学研究機構 生理学研究所(総合研究大学院大学 生命科学研究科)に進みました。博士課程を修了する頃に、「京都大学で助手を探している」と教授からお声がけいただいて、京都大学大学院の医学研究科に。2年間の期限付きでしたが、留学準備期間として、また学生ではなく研究者として働くという良い経験をさせてもらいました。その後、知り合いの教授の先生にハーバード大学の教授の先生を紹介いただいて留学。ポスドクとして3年間在籍しました。

そろそろ帰国のことを考えなければ、と思い始めた頃に、学生時代にお世話になった先生が山梨大学の教授に決まり、「助教のポストがある」と声をかけていただきました。10年在籍させていただいて、ある程度仕事もまとまったのでそろそろ独立しようと、公募にアプライして仕事を探しました。縁あって東京理科大学に着任し、今年が2年目になります。

本当にちょうどいいタイミングでキャリアがつながっていったのですね。壁にぶつかったことは?

研究者の世界には、研究者を目指す後輩を大事にし、その成長を見守ってくれる伝統があると思います。多くの先生方が、私のことを見守り育てていただけたように、私自身もその恩を次の世代につないでいければと思います。ここだと思ったときに、目の前のチャンスを迷わずつかむ決断力は大事だと思いますね。

ワークライフバランスはどうされていますか?

山梨大学にいたときに結婚し、子どもはいません。理科大に採用が決まってからは単身赴任をしています。山梨にいたときは、茶道を習ったり、ボランティア活動をしたりして、オンオフを切り替えていましたが、今は月に1回マッサージに行くくらいですね。もう少し何かやりたいなと思っています。

学生に対してはどんな先生でありたいですか。

大学時代の教授が、常にドアを開けていつでも相談しやすい雰囲気を作っていてくれたので参考にしています。ハーバード大学の教授は、よくふらりと研究室にやってきては学生とコミュニケーションをとっていました。私もその先生にならって、ちょくちょく研究室に行って、学生に声を掛けるようにしています。こちらから話しかけると、学生もいろいろ質問をしてくれる。門戸を開いて待つだけでなく、自分から学生の中に入っていくことも大事。両方をやっていきたいなと思っています。

大学院時代の教授は、「こんなプロジェクトがありますが、やりますか?」と必ず聞いてくれる方でした。「やりなさい」ではなく相手の意思を尊重してくれる。学生も自分の意思で「やります」と決めたのだから意欲的に研究に取り組むことができます。その教授もお手本になっていますね。

これからの目標は?

きちんと成果が出る研究室にすることが目標です。大学院時代の先生のアドバイスに、「オンリーワンで、ナンバーワン」という言葉がありました。この研究室でしかできないことを確立すれば、オンリーワンになり、おのずとナンバーワンになれる。まずはシナプス研究で、オンリーワンになれる成果を出したいと思っています。

これから研究者を目指す方々にアドバイスをお願いいたします。

研究者の道に、明確なキャリアパスは残念ながら難しいと思います。研究者を目指すなら、出会った先生方をロールモデルとして参考にしつつ、自分なりの道を切り拓いていく心構えが必要かと。人生に迷うこともあると思いますが、まず自分で考える力を養って、周りに流されず自分で決める力を持ちましょう。

20代の頃に、女性としての将来とキャリアを考えて悩んだことがあります。そのころ読んだシェリル・サンドバークの『リーン・イン』という本の中で、著者が、「まだ起こってもいないことで仕事をセーブするのはナンセンス」と一蹴。「もし妊娠しても出産まで10カ月もあるのだから、その時になって考えたらいい」という一言に目からうろこが落ちました。また、「ある程度の立場にならないと改革できないこともある。なれる人はトップを目指し、次の世代の人ために道を拓きなさい」という言葉に勇気づけられました。私もキャリアアップして、後輩たちを支えていきたいと思っています。

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