「クライアントとともに考える」から
「学生とともに学ぶ」へ
毎日が新しいチャレンジです
先生のご経歴を教えてください。
生れ育ったのは京都府ですが、高校時代は東京の慶應義塾女子高等学校に進学し、親元を離れて学生会館で1人暮らしをしました。寂しいとか不安よりも、都会での生活にわくわくしていました。
高校2年のときに交換留学で、憧れの地アメリカのオハイオ州に行きました。当時は日米貿易摩擦の真っただ中で、とくに日本車は大バッシングを受けていました。路上で日本車が燃やされるのを目撃したこともあります。アジア人差別もありました。ショックではありましたが、多感な高校時代に日本を出て、明るくきらびやかなだけではないアメリカの実態を知ることができたのは良い機会だったと思います。
留学したので同級生よりも1年遅れて高校を卒業。慶應義塾大学理工学部電気工学科に進学しました。電気工学科を選んだのは、高校教師で電気工学を教えていた父の影響です。
大学ではどのような研究をされたのでしょうか。
画像認識の研究室でAIの走りのような研究をやっていました。周囲の学生はみな修士課程に進んでいましたので私もそういうものだと思って修士課程に進学。研究は楽しかったのですが、私は大学での研究職には向いていないかもしれないと感じ、一般企業で研究職として働く道を模索しました。
学部生のときに、「シンクタンクならプロジェクトベースでいろいろな研究に携われる」と聞き、野村総合研究所の会社説明会に行きました。しかし当時、野村総合研究所では「女性の総合職は募集していないので君のポストはない」と言われ、あきらめました。
修士課程修了を前に、再び野村総合研究所の説明会に行ったら、「去年から女性を採用しているからぜひ採用試験を受けてほしい」と言われて再チャレンジしました。
ありがたいことに採用していただけたのですが、女性総合職の社員はまだ数人しかおらず、会社に女性社員育成のノウハウがなかったため、「自分のキャリアプランは自分で考えてください」と言われました。
ただ、たくさんのチャンスをいただき、いろいろな仕事を経験させていただきました。
最初に携わったのは主に放送・通信分野での様々な事業戦略立案でした。当時は、多チャンネル衛星放送が本格始動しようという時期で、世界各国の事業者が日本に参入してきた時代でした。
私は海外の大手衛星放送プラットフォームの日本進出をサポートすることになったのですが、彼らに日本の放送法や放送文化についてかみくだいて説明することがとても楽しく、寝食を忘れるほど仕事に没頭しました。
2004年から2008年には野村総合研究所アメリカの、コンサルティング部門の責任者も務めさせていただきました。
帰国後は企業のインターネットビジネスやデジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)を中心に、様々な企業のコンサルティングプロジェクトを担当しました。
2019年に本学経営学研究科 技術経営専攻の非常勤講師となられ、2021年からは教授に就任されました。そのきっかけは?
コンサルタントのキャリアパスとして、大学の先生という道はめずらしくありません。私は野村総合研究所に30年勤めましたので、ここで得た知見を若い人たちに伝えることができればと思っていました。そんなときに、縁あって非常勤講師のお仕事をいただいたのです。
コンサルタントから大学教授というキャリアチェンジは、中山先生にとってどうだったのでしょうか?
コンサルタント時代は、クライアント企業のお悩みに対しともに考え、アドバイスをするというのが主な仕事でした。私が今教鞭を執っているのは専門職大学院なので、学生の100%が社会人です。彼らもいろいろな分野で経験を積んだスペシャリストたちなので、こちらが何かを教える(アドバイスをする)というだけでなく、教えられることも多いです。
私は企業の先進ビジネスモデルやDX、デザインコンセプト創造などが専門ですが、基本的にこちらがテーマを与えるのではなく、ゼミ生が「やりたいこと」が研究テーマとなるので、私の知識だけでは追いつかないこともあります。ですから「教える」というよりは「ともに学ぶ」というスタンスで取り組んでいます。
常に新しいことへの挑戦なので、緊張感があり楽しいですね。
プライベートはどんなふうに過ごしておられますか?
私は無趣味な人間で、強いていえばYouTubeやTikTokを見ることくらいでしょうか。ネットの世界に狭く深いコミュニティがいくつもでき、新しいムーブメントがあちこちで起こっているのが非常に興味深いです。たとえばTikTokで本のレビューを行うBookTokというものが最近話題になっていますが、アメリカではBookTokによって、本を読む層が広がったと言われています。また、この影響で日本の若手女流作家たちが海外でも人気になっています。
日本のコンテンツとしてはアニメやマンガが有名ですが、最近はJ-POPやJ-ROCKも海外の人たちから注目されています。海外の人が日本文化の何に関心を持つのかなど、YouTubeやTikTokを見ているだけで、いろいろな研究のヒントがありわくわくしますね。
女性のキャリアデザインについて、先生のご経験からアドバイスをお願いします。
精緻なキャリアデザインを考えてみても、なかなかそのとおりになることはありません。ですからまずは、その時々に与えられた課題を一生懸命こなすこと。その積み重ねが重要です。積み重ねの中で将来の選択肢が広がっていき、やがて自分がやりたいことを選べるようになる。どれだけカード(選択肢)を増やせるかが大事なのかなと思います。
今後の目標を教えてください。
経営学って生き物だと思うんです。産業や経済はどんどん変化していますから、常に一歩先、半歩先に何が待ち受けているかを考えていかなければなりません。ですからいろいろなところにアンテナを張って情報収集をすることが重要です。
コンサルタント会社にいたときは、お客さまを通して新しい情報が集まってきていましたが、今は、学生さんたちから現場の悩みなどいろいろな情報を得て、ともに悩み、ともに研究しながら解決しています。これらの成果をまとまった形にし、世にどんどん発表していくことが今後の目標ですね。