「コンピュータ、そしてインターネットとの出合いが
僕の人生を決定づけました」
その言葉通り、後藤陽孝さんの経歴は、日本のITの歴史とぴったり符合している。
「小学校6年生のときに『これからはコンピュータの知識が不可欠だ』と、父が買ってくれたコンピュータで、ゲームやプログラミングに熱中しました」と後藤さん。
理科大では、中曽根祐司教授のもとで人工知能の研究を専攻した。
「研究室で、海外の論文を参照するためにインターネットの知識が必要だったんです。ちょうどモザイク(Mosaic)という世界初のWebブラウザが普及し始めた頃でした。解説書を読むうちに、インターネットの世界に魅了されてしまいました」
96年、大学4年のときにパソコンの使い方を教える(有)コムコンピュータスクール(後に(株)コムへ組織変更)を設立する。社員は2人。パソコンが普及し始め、企業もWebに関心を示し始めた時期だった。
「スクール経営の傍ら、生徒だった議員さんの紹介をきっかけに政党や企業のWebサイトを手がけていました」
その後、Web制作の需要が拡大し、ブリヂストンなどの企業サイト制作を中心に業務を展開してきた。この4月にリニューアルした東京理科大学公式ホームページのリニューアルにも関わっている。
「企業の膨大な情報を整理し、迅速にわかりやすい形で世の中に発信する……これは理科大で徹底的に叩き込まれた能力だと思っています。毎週50枚のレポートを手書きで作成する根性も培いました(笑)。理科大で学んだ日々は、私にとってはかけがえのない財産ですね」
昨年10月、新たなステップに挑戦するため、会社の代表を退いた。現在はシンガポールで起業の準備を進めている。
「海外での起業は、ネットを通じた情報発信で“日本の言葉や文化の中だけでものを考えている時代は終わった”と感じたからです。今後は国境を超えたコミュニケーションが当たり前になっていくでしょう」
今は英語の勉強に没頭しているという後藤さん。その表情は、新天地での再スタートに向けた自信に満ちていた。