ヒガミ ヨシカズ
樋上 賀一
教授
東京理科大学 薬学部 生命創薬科学科
研究室名 |
分子病理・代謝学(樋上)研究室
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トピックス |
2020年1月以降、以下の英文論文が研究室から発表されています。
カロリー制限に関する研究
Srebp-1c/Fgf21/Pgc-1α axis regulated by leptin signaling in adipocytes – possible mechanism of caloric restriction-associated metabolic remodeling of white adipose tissue.
Kobayashi M, et al., Nutrients. 2020 Jul 10;12(7):E2054. (IF: 4.210 in 2019/20)
肥満症に関する研究
WWP1 knockout in mice exacerbates obesity-related phenotypes in white adipose tissue but improves whole-body glucose metabolism.
Hoshino S, et al. FEBS Open Bio. 2020 Mar;10(3):306-315. (IF: 2.020 in 2019/20)
Cathepsin B overexpression induces degradation of perilipin 1 to cause lipid metabolism dysfunction in adipocytes.
Mizunoe Y, et al. Sci Rep. 2020 Jan 20;10(1):634. (IF: 4.011 in 2019/20)
がんに関する研究
Nutlin-3a suppresses poly (ADP-ribose) polymerase 1 by mechanisms different from conventional PARP1 suppressors in a human breast cancer cell line.
Kobayashi M, et al. Oncotarget. 2020 May 5;11(18):1653-1665. (IF: 3.710 in 2019/20)
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専攻分野 |
分子病理学、代謝学
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研究分野 |
老化生物学、肥満症
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紹介 |
2050年、わが国では、2.5人に1人が、65歳以上のお年寄という超高齢社会になるといわれています。また、生活習慣病の発症に関連する肥満症の増加は、先進諸国において、大きな社会問題となっています。
白色脂肪組織(WAT)の質やミトコンドリア機能は、老化関連疾患や寿命制御に重要であることがわかってきています。私たちは、長寿を示すマウスや肥満症のマウスを用いて、特に脂肪組織や脂肪細胞の機能やミトコンドリア機能の解析から、老化に伴って発症するさまざまな疾患の発症を予防し、健康寿命の延伸をも可能にする肥満症治療薬や代謝改善薬を開発するためのシーズを探索しています。
世界で初めての新たな生命現象の発見にワクワクするために、また、世界のサイエンスにできるだけ大きな爪痕を残すために、研究室の学生とともに、日夜研究に励んでいます。
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研究テーマ |
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遺伝子改変およびカロリー制限した長寿を示すマウスやラットの脂肪組織の解析
寿命制御のメカニズムとして、成長ホルモン/インスリン様成長因子(GH/IGF-1)1シグナルや酸化ストレスの制御などが重要です。
最近のサルを用いた研究から、適度な摂取カロリーの制限(CR)による抗老化・寿命延伸効果はヒトにおいても有効であろうと考えられます。CRはGH/IGF-1シグナルを抑制します。しかし、GH/IGF-1シグナルを抑制したマウスやラットにおいても、CRにより寿命が延伸します。そこで、CRのGH非依存的メカニズムを探索しました。その結果、脂肪組織において転写因子であるSrebp-1cに制御された糖から脂肪酸への合成の活性化が重要であることを見出しました(Chujo et al., Age, 2013)。
さらに、Srebp-1c欠損マウスを用いて解析した結果、CRによる寿命延伸効果や脂肪組織限定的な脂肪酸合成の活性化、Pgc-1αを介したミトコンドリア機能の活性化、酸化ストレスの抑制はSrebp-1c依存性であることがわかりました(Fujii et al., Aging Cell, 2017)。
今後は、脂肪組織選択的にSrebp-1cを活性化するメカニズム、また脂肪組織選択的にSrebp-1cにより制御される因子群を同定することで、脂肪組織の質の改善を介した健康寿命延伸法の開発に繋げたいと考えています。
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肥満症脂肪組織におけるオートファジー・リソソーム機能障害
大隅良典教授のノーベル医学・生理学賞受賞で有名となったオートファジーは、隔離膜により古くなった細胞内小器官や不要なタンパク質を取り囲み、リソソームと融合後、カテプシンなどリソソーム加水分解酵素により内容物を分解する細胞内の大規模な分解機構です。そのため、オートファジーの異常が、神経変性疾患など様々な疾患発症に関与します。
肥満症脂肪組織では、オートファジーが適切に行えていない可能性を報告しました(Mikami et al., BBRC. 2012)。さらに、肥満症脂肪組織では、カテプシンL活性の低下とそれに伴うカテプシンB活性の増加が観察されました。このようなカテプシン活性異常が、オートファジーの障害、細胞老化様フェノタイプ、インフラマソームの活性化、さらに脂肪滴局在タンパク質であるペリリピン1減少にともなう脂質分解異常に関連することが明らかとなりました(Mizunoe et al., Autophagy, 2017)。
それゆえ、肥満症脂肪組織で観察されるリソソーム機能やオートファジー機能障害を改善できれば、脂肪細胞機能を正常に保ち、生活習慣病発症の予防や治療に繋がると期待できます。
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脂肪組織・脂肪細胞でのミトコンドリア機能
近年、がん抑制遺伝子TP53が代謝制御に関わることが報告されています。そこで、肥満症脂肪組織で発現が増加するがん抑制遺伝子TP53が脂肪細胞のミトコンドリア機能に及ぼす影響について解析を行いました。その結果、脂肪細胞においてTP53タンパク質の活性化はPPARGC1A発現を低下させること、一方で脂肪細胞へ分化したTP53ノックダウン3T3L1脂肪細胞では、顕著にミトコンドリア量や活性が増加することを見出しました。すなわち、TP53タンパク質は脂肪細胞ではミトコンドリア生合成を負に制御する因子であることが明らかとなりました(Okita et al., Biochem Biophys Res Commun. 2014)。
また、肥満症特異的にかつ脂肪組織選択的にTP53により発現が正に制御されているE3ユビキチンリガーゼとしてWWP1を見出だしました。WWP1の粗暴組織における機能は不明です。現在、WWP1欠損マウスを作製して、その機能、肥満症病態への影響を調べています。
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研究室メンバー |
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助教 小林 正樹
KOBAYASHI Masaki
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