※内容は「東京理科大学報」 vol.233 掲載時のものです。

従来とは異なる新しい地震動予測の方法論を発表。地震で悲しむ人を、一人でも減らしていきたい。

地震によって起こる揺れの大きさを予測する方法を研究
清水建設株式会社 技術研究所
安全安心技術センター 地盤震動グループ主任研究員

小穴 温子さん

清水建設株式会社 技術研究所
安全安心技術センター 地盤震動グループ主任研究員
2012年3月東京理科大学大学院修士課程修了。同年4月清水建設株式会社入社。2018年3月東京理科大学大学院博士後期課程修了。2019年日本地震工学会論文奨励賞受賞。

「研究者として大切にしているのは、誠実さ。自分の経験を踏まえた妥協点を提案するのではなく、まずは、良い情報も悪い情報も、すべて正直に伝えるようにしています」

新しい年を迎えたばかりの北陸地方を襲った「能登半島地震」。千葉県沖を震源とする群発地震。いつどこで地震が起きてもおかしくない日本は、まさに地震大国だ。小穴さんは、建設会社の研究員として、地震によって起こる揺れの大きさを予測する方法を研究している。専門は、学生の頃からテーマにしてきた「長周期地震動」。震源から離れた地域の高層ビル等で、ゆったりした揺れが長く続くことでも知られている周期の長い地震動のことだ。だが、2016年の熊本地震では、従来の予測手法では説明できない地震動が観測された。そこで、当時の震源と地震動をPC上で再現し、さまざまな角度から検証することで、小穴さんは新しい予測方法論を模索。発表した論文は、日本地震工学会で奨励賞を受賞した。また実務では、超高層ビルや免震建物の構造設計に必要な地震動の評価等も行っているという。「研究者として大切にしているのは、誠実さ。最先端の研究がすぐに実務に生かせるとは限りません。予算や設計意図など、各部門の担当者やお客さんとその時々に応じた着地点を見つけるのですが、自分の経験を踏まえた妥協点を提案するのではなく、まずは、良い情報も悪い情報も、すべて正直に伝えるようにしています」と小穴さん。

中学・高校と通った学校が埋立地にあったこともあり、当時から漠然と地震による液状化のリスクを意識していたという小穴さんは、大学時代は、建築構造を専門とする北村研究室に所属し知見を深めた。修士の頃、先生から社会に出て自ら課題を見つけることの大切さや働きながら博士号を取得する「社会人博士」制度を教えてもらったことで、就職を決意。社会人4年目に働きながら再び大学院へ。2018年に博士号を取得したという。今後も、地震防災に関わるオープンイノベーション的な研究に取り組みたいと語る小穴さんは、最近は、AI(人工知能)を活用した地震の揺れ予測などにも挑戦しているそうだ。地震が起きてしまうことは避けられない。でも、地震の被害を最小限にするための小穴さんたちの研究は、きっとこの国の大きな希望となるだろう。

都心南部直下地震が起きた際の被害予測の技術資料