ニュース&イベント NEWS & EVENTS

2019.04.26 Fri UP

学融合研究によりがんと戦う―本学教員の論文が国際学術誌に相次ぎ掲載 ~がん細胞に死を促すタンパク質の人工的な合成に成功~

本研究成果のポイント
  • ●正常な細胞に傷をつけることなく、がん細胞のみに細胞死を促すタンパク質TRAILの人工的な合成に成功しました。
  • ●がん細胞の転移の原因となる、血液中を循環しているがん細胞を単離して体外で培養、再回収する新たな方法を開発しました。
  • ●これらの技術により、今後、がんの診断・治療のための新たな知見が得られるものと期待されます。

研究の背景

多くの人類を苦しめる疾病『がん』。WHO(世界保健機関)が昨年発表したデータによれば、2018年の1年間だけで、世界中で新たにおよそ1,810万人ががんに罹患し、前年以前に罹患した人を含めて960万人ががんのために亡くなっています。がんの克服は、世界中の科学者、医療関係者にとって最も重要なテーマの1つと言って間違いないでしょう。
がんの研究、治療のために多くの研究者が取り組んでいる課題の1つが、体内に出来てしまったがん細胞をどうやって検出、同定し、除去するのか、ということです。また、がんは血液やリンパ液の流れに乗って元の臓器から別の臓器に転移するため、患者の血液からがん細胞を採取して直接調べることができれば、効果の高い抗がん剤を探すなど、より詳しい診断と治療が可能になります。

がん細胞だけを死に至らしめるタンパク質 TRAILの人工的な合成

東京理科大学薬学部の青木研究室(生物有機化学研究室、代表:青木伸教授)では、薬学や生物有機化学、生物無機化学、超分子化学など複数の研究分野に立脚して、がんに対する研究を行っています。特に注目を集めている研究の1つが、がん細胞に細胞死を促すタンパク質、TRAIL(腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド)の人工的な合成です。

自然界に存在するサイトカインの一種であるTRAIL(TNF-related apoptosis-inducing ligand)は、体内の免疫細胞によって産生され、がん細胞が持つ特定のタンパク質受容体(デスレセプター)と結合して、がん細胞に自発的な死を促します。この自発的な細胞死を「アポトーシス」といい、がん細胞などにあらかじめ組み込まれているプロセスです。アポトーシスを誘発されたがん細胞は、それ自体が死ぬだけでなく、細胞の遺伝情報を担うDNAが断片化されるため、細胞の分裂・増殖が停止します。TRAILは正常な細胞を傷つけることなく、がん細胞のみを殺すことができるため、副作用の少ないがん治療に利用できると期待されています。
今回の合成について、青木教授は「がん細胞に自発的な死を促すため、TRAILを模した金属錯体に特定のタンパク質を結合させた化合物(発光性イリジウム錯体-ペプチドハイブリッド)を新たに合成しました。この人工TRAILは、自然界に存在するTRAILと同様に、がん細胞の受容体に結合してがん細胞の細胞死を誘導します」と説明しています。

自然界のTRAILは、前述のとおりがん細胞にアポトーシスを誘発します。しかしこの人工TRAILは、ペプチド部分を変換することで、アポトーシスだけでなく、「ネクローシス」と呼ばれる別のタイプの細胞死に類似した現象を誘導することが分かりました。本来ネクローシスは、細胞にあらかじめプログラムされた死とは異なり、怪我や感染などの外的な要因によって細胞が「殺される」現象をいいます。このように異なった細胞死が誘導される理由はわかっておらず、今後の研究課題です。

2018年8月、青木研究室からがん細胞の細胞死に関わる2本の論文が、イギリスの学術誌『Bioinorganic Chemistry and Applications』、同じくアメリカの『Bioorganic and Medicinal Chemistry』に掲載されました

血液中のがん細胞の単離・培養・再回収

さらに青木研究室では、本学の薬学部生命創薬科学科、基礎工学部材料工学科、同学部電子応用工学科、理工学部の機械工学科、生命医科学研究所の研究者や、他大学の研究者との連携研究によって、がん患者の血液中に循環するがん細胞(circulating tumor cell, CTC)を回収して培養し、それらを再度回収する新たな方法を開発しました。血液中には赤血球や白血球など多くの細胞が浮遊していますが、がん細胞はこれらの正常な血球細胞と比較して大きいことが特徴です。今回開発した方法では、ガラスビーズフィルタ(GBFs)を使用して、CTCの単離と培養、再回収を行います。また、CTCを検出するための画像解析法と、新たなPCソフトウエアの開発も行いました。

これらの研究成果は、2018年12月発行のアメリカの学術誌『ACS Biomaterials Science and Engineering』、2018年4月発行の『日本薬学会会誌(Biological and Pharmaceutical Bulletin)』にそれぞれ掲載されました。

論文情報

<人工TRAILの合成>

雑誌名 Bioinorganic Chemistry and Applications 2018年8月1日 オンライン掲載
論文タイトル Luminescent Iridium Complex-Peptide Hybrids (IPHs) for Therapeutics of 3 Cancer: Design and Synthesis of IPHs for Detection of Cancer Cells and Induction of Their Necrosis-Type Cell Death
著者 Abdullah-Al Masum,1 Yosuke Hisamatsu,1 Kenta Yokoi,1 and Shin Aoki
DOI org/10.1155/2018/7578965
雑誌名 Bioorganic and Medicinal Chemistry 2018年9月15日 オンライン掲載
論文タイトル Design and synthesis of a luminescent iridium complex-peptide hybrid (IPH) that detects cancer cells and induces their apoptosis
著者 Abdullah-Al Masuma, Kenta Yokoia, Yosuke Hisamatsua, Kana Naitoa, Babita Shashnia, Shin Aoki
DOI 10.1016/j.bmc.2018.08.016
<簡便にCTCを検出する画像解析とPCソフトウェア>
雑誌名 Biological and Pharmaceutical Bulletin 2018年4月1日掲載
論文タイトル Size-Based Differentiation of Cancer and Normal Cells by a Particle Size Analyzer Assisted by a Cell-Recognition PC Softwareh
著者 Babita Shashni, Shinya Ariyasu, Reisa Takeda, Toshihiro Suzuki, Shota Shiina, Kazunori Akimoto, Takuto Maeda, Naoyuki Aikawa, Ryo Abe, Tomohiro Osaki, Norihiko Itoh, Shin Aoki
DOI 10.1248/bpb.b17-00776
<GBFsを使用したCTCの単離・培養・再回収>
雑誌名 ACS Biomaterials Science and Engineering 2018年12月1日掲載
論文タイトル Simple and Convenient Method for the Isolation, Culture, and Re-collection of Cancer Cells from Blood by Using Glass-Bead Filters
著者 Babita Shashni, Hidehiko Matsuura, Riku Saito, Takuma Hirata, Shinya Ariyasu, Kenta Nomura, Hiroshi Takemura, Kazunori Akimoto, Naoyuki Aikawa, Atsuo Yasumori, and Shin Aoki
DOI 10.1021/acsbiomaterials.8b01335

東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
ABOUT:https://www.tus.ac.jp/info/index.html#houjin

当サイトでは、利用者動向の調査及び運用改善に役立てるためにCookieを使用しています。当ウェブサイト利用者は、Cookieの使用に許可を与えたものとみなします。詳細は、「プライバシーポリシー」をご確認ください。