メンバー

藤井 孝藏

工学部情報工学科 教授

研究分野

航空宇宙工学 (数値流体力学)

研究キーワード

流体力学,航空宇宙工学,計算工学

希薄気体内での移動手段に関する研究

宇宙空間での推進手段や月の先にある火星など薄い大気中での飛行による移動を可能にする手段として小型の電源で空気力を向上させる技術「プラズマアクチュエータ」に関する研究を進めている。平成30年度は、よる揚力向上などに関する基礎的な実験と数値シミュレーションを実施した。

インタビュー

■なぜ宇宙の研究をすることになったか?

現在宇宙探査や宇宙科学衛星などはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙科学研究所がやっています。

私が大学院に進学したころ(1970年代前半)というのは、今の宇宙科学研究所は東京大学宇宙航空研究所でした。
当時は宇宙学科というものがなく、航空学科でした。
機械系は希望者が多く狭き門だったため、元々飛行機は好きだったこともあり、それよりも希望者の少ない航空学科へ進みました。当時は宇宙をイメージしてた人はそんなに多くありませんでした。

今のJAXAの宇宙科学研究所はプロジェクト(科学衛星や探査機)を走らせることが非常に大きなテーマになっているんですが、1980年代ごろまでは一般的な航空宇宙に関わる広い範囲の基礎研究の研究グループとプロジェクトを実行するグループと両方が存在していました。今は後者のほうが圧倒的な割合、ほぼ全体を占めています。
私が宇宙科学研究所に行ったのは、前者の部分、つまり幅広く航空宇宙を支える基礎研究をするためでした。

宇宙に限らず、航空宇宙ってやっぱり面白い

何が面白いかというと、航空宇宙は小さな複雑系システムなのです。今はいろんな研究分野も実際の産業も個別に分かれてしまいバラバラですが、そのいろんな物がひとつの衛星とかロケットとかに凝縮されています。電気系あり、推進系あり、輸送系あり、材料系あり。機械系電気系のありとあらゆる分野がひとつの物に凝縮されてるのが宇宙機。
個別ではなく、全体を小さな中ですべてがイメージできるので面白い分野です。

逆に言えば、ちょっとした間違いやちょっとしたことが全体を壊してしまうようなリスクの大きい分野。例えば衛星の結線を一つ間違えたり、バルブのどこかにトラブルがあったりするだけで大きな損害となります。

また、宇宙科学研究所のようなところは、自分たちのやったことがそのまま物に繋がります。非常に基礎的な研究であっても、いろんなアイデアを出せば実現する可能性があります。ただしそこには責任を持つリスクもあります。

こういう経緯から結果として40年くらいずっと研究を続けています。

■研究開発した、あるいは、している技術をつかって宇宙で実現したいことは?

2000年初めにアメリカの航空宇宙学会の講演でたまたま入った会場で、金星(惑星)の大気を使って飛行機を飛ばしたいという声がありました。
人が乗るわけではなく探査機ですが、惑星の探査というと衛星で回って観測するのが一般的です。火星についてはOpportunityやSpritなどのローバーが火星の大気の中で動いています。
しかしローバーは一日に数キロくらいしか調べられません。そこで、飛行機やヘリで飛べばもっと遠くまで行くことが可能です。実際に調べたところ、金星には硫酸の雲があり、50km高いところを飛ばさないといけないため難しいです。

そういうわけで、惑星大気の中に飛行機を飛ばしたいです。

飛行機は空気の力で飛ぶのですが、たとえば火星は大気密度が地球の1/100くらい薄いので、飛びにくいです。
私は空気力学の専門家なので、その基礎研究の立場から実現へ向けて研究をしています。

■地上で実現したいことは?

形状を工夫しない流体力学設計をやりたい。

これは宇宙科学のスピンオフになるのですが、通常、物は形を工夫して(飛行機の翼の形や新幹線の頭の形など)空気と戦っています。

しかし形を工夫するのではなく、ある小さなデバイス(プラズマアクチュエータ)を付けると形状を工夫しなくても性能が良くなります。
そこで2005年からプラズマアクチュエータの研究を始めました。
元々は宇宙の薄い大気の中で飛ぶのに使えないかと思いましたが、研究により薄い大気の中ではプラズマが拡散してしまい応用が難しいことがわかり、現在では地上での利用が研究されています。

余談ですが、計算科学はコンピューターを使った実験がメインです。
宇宙のために作ったプログラムは実は地上でも使えて、宇宙だけに限定されません。
スーパーコンピュータを使った数値シミュレーションでは仮想的に計算機の中で計算します。

実際に新幹線のプログラムは、元々はロケット打ち上げの時の射場の安全の計算をしたプログラムを使用しています。
現在はリニアについても同様に設計しています。

■研究していて印象に残ったこと・楽しいと感じたことは?

わからないことがわかった、出来ないことが出来た。
楽しいのは何か実現できたとき。

具体的には、私は当時副所長をしていたのですが、管制室にいて、探査機が軌道に入るときの瞬間などです。
数百億円が一瞬で飛ぶ可能性があります。金星探査機のあかつきは投入できずに失敗しました。5年後に再投入して観測は出来ましたが、その瞬間です。

2回目の再投入の時に、状況のわからない探査機でもう1回金星の大気に入れるリスクを覚悟してトライするか、それとも一旦太陽系軌道全体を回して状況を把握してから金星に投入するか、どっちを取るかの議論をしました。その瞬間が印象に残っています。太陽系を回し、結果成功しました。
しかし、太陽系を回すと太陽に近い惑星の場合は熱の関係もあって、熱くて機器が持つかの判断も必要になります。でもすぐ判断しないといけません。

宇宙って覚悟やリスクも必要ですが、面白いです。