渡辺優子

リカの沼

渡辺優子さん
基礎工学研究科 材料工学専攻※
修士2年※2021年4月に先進工学研究科マテリアル創成工学専攻に名称変更。所属学科、学年は取材当時のものです

より快適な社会を実現できる高性能センサを作りたい!

分野横断的に学び、多角的な視点を養える理科大

高校時代から化学が好きで、漠然と化学に関することを学びたいと思っていました。そんなときに知ったのが、三大材料である無機、有機、金属材料について広く学べる理科大の基礎工学部材料工学科でした。最初から興味を絞り込むのではなく、さまざまな最先端の材料を総合的に学ぶことで、将来の選択肢が広くなることにも魅力を感じました。
大学1、2年生のときは、量子力学なども含めて基礎科目を徹底して学びました。当時を振り返ると、毎週の学生実験のレポート提出、授業の課題の提出が大変で、やっとの思いで乗り切っていました。あの苦労が自分の身になったと思えたのは、4年生で無機材料の研究室に配属されてからです。「あっ、これはこういうことだったんだ!」と、研究の現場でそれまで学んできた科目の点と点がつながり、多角的な視点を持つことの重要性にあらためて気づきました。

水素ガスを検知するセンサの研究

私が卒業研究から継続して取り組んでいるのは、「水素センサ」です。水素ガスは目に見えませんが、このセンサは水素が触れると一瞬でとても鮮やかな青色に着色します。その仕組みは、センサ表面のWO3(三酸化タングステン)が水素に反応して構造が変わり、その際の光吸収で青色に見えるというものです。大学3年生の時に、研究室紹介で初めてその現象を目の当たりにしたときには、衝撃を受けました。複雑な操作がなく、視覚的に気体を瞬時に検知できることはほかにはない魅力です。
水素は発電効率が高く、地球温暖化の大きな原因とされるCO2などの有害物質を排出しない非常に優れたエネルギー源です。そのため、化石燃料に代わる「新世代の燃料」として注目されています。しかし、水素ガスは無色無臭かつ爆発の危険性がある非常に危険な気体です。安全に水素を取り扱うためには、高性能な水素検知センサが不可欠です。
私が目指しているのは、わずかな水素ガスでも検知できる、より高性能な水素センサの開発です。センサの表面積が大きくなれば、単純に水素が触れる面積が大きくなるので、より反応しやすくなります。そこで、細かい穴が無数にある「多孔質体」に着目し、薄膜に細かい穴を無数に形成させることで表面積を増やす方法を試みています。
研究は、思考と実験の繰り返しです。「うまくいった」と思っても、なかなか安定して再現できない難しさがあります。実験試料をつくる際の、湿度や温度といった環境にも影響を受けます。試料は薄膜なので、作製時に近くに人がいると振動などで形成させる膜構造が影響を受けるとも考え、研究室には朝7時に来て、まだ誰もいない静かな時間に自分のペースで実験をしています。なぜうまくいかないのか……。その原因を解明し、改良することでよりよい性能を引き出せたときに、強い喜びを感じます。

渡辺優子

無機と有機の複合デバイスの可能性

水素センサは水素に対する応答性は非常に優れていますが、使用環境によって性能が劣化するなどまだまだ課題があります。例えば、WO3は水素が触れると青色に染まりますが、水素がなくなって空気中の酸素にさらされると、すぐに元の色に戻ってしまいます。もし輸送用のパイプから水素ガスが漏れる事故が起こっても、何かの拍子で漏れがストップしたら、センサの色が戻ってしまうのです。こうした問題を解決するために、現在の無機材料である水素センサに、有機材料である柔らかい高分子膜を組み合わせる「複合デバイス」を考えています。水素は通すが、酸素は通さない構造とすることでガス選択性をセンサにもたせることが目的です。
水素センサの研究をするうちに、ガスセンサ以外のセンサにも興味を持つようになりました。現在、IoTやAI、無人ロボット等を用いてより快適な生活を実現した新しい社会を意味する「Society 5.0」という言葉を耳にすることが多くあります。このような自動化社会において、人や物の情報を感知するセンサは必要不可欠な技術です。 大学院修了後は、センサを用いた自動制御を取り扱うメーカーに就職する予定です。今後、研究者として生活の基盤を支えるようなセンサを開発し、より快適な生活の実現に貢献したいと思っています。

渡辺優子

沼の外から

山下裕弥

山下裕弥さん基礎工学研究科 材料工学専攻※ 修士2年
※2021年4月に先進工学研究科マテリアル創成工学専攻に名称変更。所属学科、学年は取材当時のものです

渡辺さんは、いつも朝早くから研究室に来ています。研究室では寡黙で、集中していると話しかけても気づいてくれないことも(笑)。でも、僕が実験で行き詰まったときなどに相談すると、親身になってくれて「こういう器具が使えるんじゃない?」と違う視点からのアドバイスをくれます。研究分野は違いますが、研究熱心で頼もしい同期です。