東京理科大学の
研究者たち

微小空間の流れを探る

工学部 機械工学科元祐昌廣教授

マクロとかけ離れたミクロの世界

私が研究しているのは、1㎜以下の微小な空間に拘束された液体や粒子の流れです。このようなマイクロやナノスケールの空間では、電気や磁気など物性の影響が大きくなり、私たちが普段生活しているマクロな空間とは異なる特殊な現象があらわれます。例えば、髪の毛や毛細血管ぐらいの非常に細い管の中では、慣性より粘性の影響を強く受けて液体が流れにくくなります。でもそれをうまくコントロールすることができれば、これまで計測できなかった現象の解析が可能になります。
子どものころに読んだ「昆虫の不思議」という本に、「昆虫が人間と同じサイズだったらすごい力を持つことができる」と書かれており、興味をひかれたことがありました。大学生になって、「現象のサイズ効果」を学んだときに、記憶の中の昆虫のサイズの話と結びついて、興味が高まったことを思い出します。物体のサイズが変わるとその物体に働く力などが変化し、これまで気にならなかったような現象の影響が強く表れ、異なる性質を示す。このような私たちの日常とはかけ離れた微小なサイズでの現象を探求したいと思ったのはそれからでした。

アインシュタインとつながる体験

微小な空間では表面張力や流路の抵抗、エネルギーの分散などが変化し、液体や微粒子の動きが変化します。そこで、光や電荷を利用して流れを制御し、微粒子の動きや流れ方の変化を利用して微粒子を計測する方法を研究しています。このような微小空間での液体や物質などのふるまいを理解すると、解決できることがたくさんあることから、研究室では微小空間を利用したマイクロデバイスを開発しています。例えば、微小空間では、細胞1個だけを動かすことができるので、この現象を利用し、がん細胞を検出するデバイスを開発しました。
微小空間では、私たちが普段気にもとめないような些細なことが大きな問題となります。研究していても、微小空間ゆえに見落としていることがあってなかなかうまくいかないこともたくさんあります。そんなサイズの違いの理解を促してくれたのがブラウン運動の物理です。液体や気体中の微粒子が不規則に動く現象のことで、アインシュタインは微粒子の動きを表現する理論を発見しました。実際に微小空間の中で粒子の動きを計測すると、アインシュタインの理論通りの動きが観察されました。そして、電気で移動する粒子の動きの計測にはこの理論がとても重要でした。かつてアインシュタインが見たものを今自分も見ていると思うと、長い時間を超えてつながったような気がして感動したことを覚えています。

社会を変えるポテンシャル

微小空間の流れは、医療など様々な分野に応用できます。私たちは脳動脈瘤の成長や破裂を予測する診断法を開発しています。脳動脈瘤が大きくなったり、破裂したりするのは、血管壁の弱さや血流、血圧などが関わるといわれてきましたが、詳細なメカニズムは不明です。そこで、臨床データをもとに3Dプリンターで作った脳動脈瘤のモデルを用いることで、わずか数ミリ程度の瘤の中で血液がどのように流れているかを計測し、解析する装置を開発しました。その結果、動脈瘤が破裂するときと破裂しないときの、血流の違いや破裂に関わる因子が明らかになりつつあります。このような研究成果をもとに、動脈瘤の破裂を予測する血流シミュレーション技術を開発しています。この技術は医療機関で、手術前に術法や効果を検証するための手段として使われ始めています。
また、血液型分析チップも私たちが開発したものの一つです。これは、チップ上に微小な流路や反応室を設けたもので、遠心分離などの前処理なしに、ABO式、Rh式の血液型を5分以内に目視で判定できます。わずかな血液を数滴垂らし、その流路の流速や圧力などをコントロールすることで希釈や抗原抗体反応などがスムースに進み、血液型を簡単に分析できるのです。簡単に短時間で、しかもわずかな血液量で分析できるのも微小空間ならではの特徴です。
このように工学の技術を医療に応用するのはとても興味深く、やりがいがあります。今後、力を入れたいのは、濃縮技術の研究です。この技術があれば、検出困難な微量成分の分析が可能になるなど多くのメリットがあり、もっと高度なデバイスを作ることが期待できます。微小空間を利用すると、アイデア次第でマクロの世界では不可能なことを実現できるきっかけになります。微小空間には、小さいながらも社会を大きく変えるポテンシャルがあるのです。

連携したい分野元祐研究室+ヘルスケア

微小空間の流れは、医療診断のほかにも様々な分野で応用できますが、私が花粉症持ちという事情もあり、花粉症のアレルゲンを簡単に検査するなど、ヘルスケアでの利用に期待しています。超高齢化社会において健康長寿を実現するためにも、幅広いヘルスケア分野と連携していきたいです。