対談企画

Vol.3理科をもっと身近に、より楽しむために

身の周りにある理科
内田さん
私は東大の大学院の時に、藤嶋先生の授業を受けていました。当時、授業中に本多・藤嶋効果についてのエピソードを話して下さったのですが、発見に至るまでの当時の先生自身のわくわくしている様子が直に伝わってきて、それがとても印象に残りましたね。
藤嶋学長
今でも毎週、出前授業を小、中、高や先生方のところに行ってやっているんですよ。日本にとっても、人類にとっても、今一番大事なのは理科離れをいかに防ぐかだと思います。理科を好きになるのに必要なのは、感動して、面白いと感じてもらうことなんですね。私はよく論語を例に挙げるんですが、孔子の「これを知るは、これを好むにしかず」という言葉があります。まずは知って好きになるわけですね。そして、それを楽しむということ。勉強をし始めて好きになり、それがどんどん面白くなって、研究がやめられなくなってしまうんです。
内田さん
私は小さい頃から理科が好きでした。野原でムラサキツユ草を摘んできて絞り汁を作って、レモンや重曹を入れて色が変わるのを楽しんだり、図鑑を見ながら、自分で勝手に実験をしたりしていました。先生がおっしゃったように、まずは知るところから始まって、図鑑を読んで好きになって、楽しんでという過程を繰り返して、今に至っていますね。特にものが変化するところに興味があったので、化学の方に進みました。
現在は、子どものための実験教室をやっています。特に「台所の科学」と称して、料理に関わることについて取り上げています。例えば紫キャベツの液に焼そばを入れるとアルカリ性の成分で緑色に変わったり、レモンを入れたらピンク色に変わったり、という実験をしています。子どもはそれを見るだけでも、ぱっと目を輝かせるんですね。そこから、実は台所にも科学はあるんだよということを伝える活動をしています。幼稚園から小学生ぐらいが対象なので、今は意味が分からなくても、いずれ、酸とアルカリについて学校で習った時に、あの時の焼そばの話だと思い出してもらえるといいなと思っています。
藤嶋学長
私の講演の時にも、身の回りのものに関心を持つように話をしていますね。ただ道を歩くだけでも、面白いことはたくさんあります。例えば「雑草」という名の草はなくて、実は色々な名前を持っているんですよね。ねこじゃらしの本当の名前は、エノコログサというんですよ。エノコロというのは、子犬のことです。英語ではフォックステールグラスといって、キツネのしっぽという意味ですね。それを一般にねこじゃらしと言っていますが、注意深く見るとねこじゃらしは色々な種類がある。とにかく、ありとあらゆるところに面白さがあるわけです。たんぽぽでも、一輪に綿毛が200個もあって、花びら1つに全部種がついています。綿毛には全部種がついているので、それを吹くから増えやすい。つつじの場合は、花びらの真ん中に1枚だけ赤い点々があります。それは、受粉するためにミツバチの標的になるようにあるのです。そういうふうに、「なんでだろうな?」と思うこと自体が大切なんですね。また、私は身の回りの面白いものについてシリーズ本を書いていますが、身近な電化製品にも興味深いことがたくさんあることが分かります。トースターのパンが飛び出す仕組みなど、私も調べていて新しい発見があってびっくりしましたね。
内田さん
先生は日常をよく見ている研究者ですよね。たくさんアンテナを持っておられるので、お話を聞いているとわくわくしてきますし、自分で見逃していることがたくさんあるんだなと気付かされました。そういうことを教えていただけると、歩いていても楽しいことがたくさんあるんだとか、調べたいと思うようになりますね。
藤嶋学長
本当に身の回りには興味深いものがたくさんあるんですよね。私は幼少期に大自然に囲まれていたので、ホタルや流れ星の不思議をワクワクしながら考えていました。私の幼い頃と同じように子どもたちが身の回りの興味深いものに気付けば、なんだろう、不思議だなと思うことに繋がるんです。子どもは何に対しても「どうしてだろう?」という思いを基本的に持っているはずなので、それはずっと大切にしてほしいですね。内田さんがやられている活動も同じではないでしょうか。
内田さん
私は科学者ではなく、科学の魅力を伝える道を選んだのですが、科学者の方が色々な「なぜ?」を見つけて、生き生きと不思議を探求し、楽しんでいらっしゃる姿や、人となりが素敵なところも一緒に伝えたいなと思っています。
藤嶋学長
私は寝ても覚めても研究のことが気にかかり、研究テーマを常に考えています。ぜひ子どもたちにもどんどんと興味を持ってもらいたいですね。今回の大震災においても、科学技術が大事だと改めて皆さんは認識したのではないでしょうか。
大人も一緒に理科を楽しむ
藤嶋学長
私は今、理科をわかりやすく伝える絵本を多く書かれている作家のかこさとしさんと一緒に本を作っています。また本学では、かこ先生の作品など多くのベストセラーの絵本を集めた「坊っちゃんとマドンナちゃんのこどもえほん館」を開設しました。多くの子どもに読んでもらい、理科に興味を持ってもらおうと開放しています。
かこ先生の「ピラミッド」という絵本では、ピラミッドが潰れない理由が科学的に書かれています。260万個の石を積み上げているけれど、なぜ潰れないか。潰れてしまったピラミッドと潰れないピラミッドの違いはどこにあるのか?調べてみると潰れないものは基礎がきちんとしているからなんですね。この話から、小学生に向けた講演の時には、今が大切な基礎なんだよと話しています。つまり、今きちんと勉強していれば、将来絶対に潰れないんだということを伝えるのに一番良いのです。
内田さん
私もかこ先生は大好きで、尊敬している先生です。かこ先生の絵本には、「どうして?どうして?」という描写が多くありますが、子どもが持っているその気持ちを、理科が苦手な大人に潰されないようにしてほしいと思いますね。
藤嶋学長
今、特に小学校の先生は文系出身者が多くなっているので、理科を教えるのが少し苦手な先生が増えているかもしれません。
内田さん
子どもの理科離れもそうですけれど、今は大人の理科離れ、お母さんの理科離れも進んでいますね。
藤嶋学長
それを防ぐためには、内田さんの取り組んでいる大人も楽しめる「台所の科学」というのは今、一番大事ですよね。お母さんが嫌いだと子どもはなかなか興味を持たないものですから。
内田さん
親子向けの実験教室では、実はお母さんたちも意識してやっています。親が好きになれば、自然に子どもも好きになっていきますからね。
今後、理系を目指す人へ
藤嶋学長
今年私は科学者の名言の本を出しました。これは、著名な科学者を108人取り上げてその経歴と名言をまとめているのですが、現代に生きる私たちの心にも響く言葉ばかりだと思います。中学高校で習う単位に名前を残したような科学者も、多く紹介しています。科学者たちは誰もが、この社会をより良くするために研究をしていたんですね。ぜひ若い研究者、あるいはこれから理系の道に進もうと考えている学生諸君に読んでもらい、これからの励みにしてもらいたいですね。
内田さん
tk003
理系だと道が狭まってしまうとあきらめてしまう人もいるかもしれませんが、実際は多様な生き方に繋がっていくので、自信を持って好きなことを貫いてもらいたいと思います。現在私が行っている、本を書いたり話をしたりすることで文系と理系の間に立つ仕事は、理系に進んだからこそできる仕事だと思います。理科に苦手意識を持っていたり、特別好きではないという方に対して、面白さを伝える架け橋になることをやっているつもりでいますね。皆さんは科学というのは少し遠いもののように感じているかもしれませんが、実は先生がおっしゃったように、驚くほど身近なところにあって、そこから色々なことが学べます。例えば、色々な眼鏡をかけると世界が全く違って見えるような、科学はそんな素敵な道具みたいなものだと知っていただきたいですね。

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