2020.12.16 Wednesday

間葉系幹細胞が腫瘍組織に集積する性質を利用した、新規がん標的治療法を開発
~細胞移植によるドラッグデリバリーシステムの開発~

研究の要旨とポイント
  • ●間葉系幹細胞が腫瘍組織に集積する性質を利用して、抗がん剤を封入したナノ粒子を間葉系幹細胞の表面に修飾することにより、抗がん剤を効率的に腫瘍組織へ送達する方法を開発しました。
  • ●アビジン−ビオチン複合体法(ABC法)を用いてナノ粒子を細胞表面に修飾することにより、間葉系幹細胞の細胞特性に影響を与えることなく、大用量の薬物を安定的に搭載することが可能となりました。
  • ●薬物が腫瘍組織を標的として送達されるため、より効果的で安全ながん標的治療法としての利用が期待されます。

東京理科大学薬学部薬学科の草森浩輔助教、西川元也教授、高山幸也氏(博士課程4年)らの研究グループは、間葉系幹細胞を用いることにより、抗がん剤を効率的に腫瘍組織へ送達する新たな薬物送達法、およびがん標的治療法を開発しました。

間葉系幹細胞は、骨髄や脂肪、さい帯、胎盤などに含まれる幹細胞です。幹細胞とは、一定の限られた種類の細胞に分化する能力(分化多能性)をもつ細胞で、本研究で用いられた間葉系幹細胞は、骨や軟骨、脂肪、筋肉などの組織に分化します。間葉系幹細胞は、組織修復作用・免疫抑制作用を有することから、再生医療において近年盛んに利用されています。間葉系幹細胞はさらに、体内の炎症組織や腫瘍組織に積極的に集積する性質をもつことが報告されており、草森助教らの研究グループは、この性質を利用した新たなドラッグデリバリーシステムの開発をめざし、研究を行ってきました。

本研究では、抗がん剤であるドキソルビシン(DOX)をナノ粒子(リポソーム)に封入し、これをアビジン−ビオチン複合体法(ABC法)を用いて間葉系幹細胞の表面に修飾しました。ABC法は、アビジンとビオチンの間で形成される非常に強固で特異的な結合を利用した、物質の検出や精製などに広く利用されている技術です。本研究では、細胞表面をアビジン化した間葉系幹細胞にビオチン化したDOX封入リポソームを添加することにより、間葉系幹細胞をDOX封入リポソームで安定に修飾することに成功しました。

本研究ではさらに、このようにして得られた「DOX封入リポソーム修飾間葉系幹細胞」を用いたがん治療の有効性を、皮下担がん、および肺転移モデルマウスを用いて確認しました。

研究の背景

一般に、従来の抗がん剤は血流に沿って全身の組織に運ばれるため、正常な組織にまで作用し、強い副作用が生じていました。腫瘍組織に狙いを定めて薬物を送達する技術を開発することにより、薬物の効果を最大限に引き出し、副作用を最小限に抑えることが可能となります。

草森助教らの研究グループは、これまでの研究から、ABC法を用いて間葉系幹細胞の表面を化合物で長期的に修飾する方法の開発に成功していました。本研究では、間葉系幹細胞の表面を抗がん剤で修飾することにより、腫瘍組織を標的としたドラッグデリバリーシステムの開発を目指しました。

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研究結果の詳細

研究グループは、まず、リポソーム(リン脂質二重層の膜からなる小胞)を作製し、その中に抗がん剤であるDOXを封入しました。そして、このリポソームにNHS-biotinを添加することにより、リポソーム表面をビオチンで修飾(ビオチン化)した「DOX封入ビオチン化リポソーム」を得ました。次に、マウス間葉系幹細胞株C3H10T1/2の細胞表面を同様にしてビオチン化し、これにアビジン溶液を添加することにより、ビオチンを介してアビジンが細胞表面に結合した「アビジン化C3H10T1/2細胞」を得ました。そして、「DOX封入ビオチン化リポソーム」と「アビジン化C3H10T1/2細胞」を混合することにより、「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」を作製しました。

この「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」の細胞特性を、未修飾のC3H10T1/2細胞と比較したところ、増殖性、培養プレートへの接着性、遊走性、および腫瘍組織への移行性について、両者に大きな差は見られませんでした。この結果から、ABC法によるDOX封入リポソームの修飾は、C3H10T1/2細胞の細胞特性にほとんど影響を与えないことが示されました。なお、「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」は、その細胞表面の約3.6%がDOX封入リポソームで覆われ、細胞1個あたりに修飾されたDOX量は約21.5pgでした。

研究グループは、以下の実験を行い、「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」の抗腫瘍作用を確認しました。
in vitro実験(試験管などの容器内で行う実験)>
・がん細胞との共培養
がん細胞として、マウス大腸がん細胞株colon26を用いました。このがん細胞を「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」または「C3H10T1/2細胞+DOX封入ビオチン化リポソーム」と混合して共培養したところ、「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」と共培養した場合に、より多くのDOXが、がん細胞内に取り込まれました。

また、がん細胞を「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」またはC3H10T1/2細胞と混合して共培養したところ、がん細胞の生存率は、未処置群と比較して前者は48%、後者は89%でした。また、トランズウェルアッセイ(多孔質の膜を介した間接的な共培養法)を用いて同様に共培養したところ、がん細胞の生存率は、前者は76%、後者は100%となりました。

・「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」による薬物送達メカニズム
「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」とがん細胞を混合して共培養し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察しました。すると、DOX由来の蛍光は、培養初期において「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」とがん細胞との接触部に隣接して見られましたが、時間の経過とともに、がん細胞内のリソソーム(外部から取り込んだ物質の消化などに関わる細胞内小胞)付近、その後は核内に見られるようになりました。また、エンドサイトーシス(細胞が外部の物質を細胞内に取り込む作用)阻害剤を添加した場合には、DOXの蛍光ががん細胞内で完全に見られなかったことから、DOX封入リポソームは「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」の表面から隣接するがん細胞によるエンドサイトーシスによって、効率よく取り込まれることが分かりました。

in vivo実験(生体内で行う実験)>
・腫瘍組織に直接注射した場合
皮下に腫瘍を有する、皮下担がんモデルマウスを用いて実験を行いました。このモデルマウスの腫瘍内に、①「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」、②C3H10T1/2細胞、③「DOX封入ビオチン化リポソーム」、④DOX、または⑤生理食塩水(対照群)を定期的に注射しました。すると、実験開始20日後には各群における腫瘍体積は、対照群と比較して、①37%、②87%、③41%、④48%となりました。C3H10T1/2細胞では腫瘍体積にあまり変化がなかったのに対し、「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」は有意に腫瘍体積を減少させました。

・静脈注射した場合
間葉系幹細胞は、静脈注射した場合に肺や肺病巣によく移行することが知られているため、肺に腫瘍を有する、肺転移モデルマウスを用いて実験を行いました。「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」は、静脈注射された1時間後には他の組織よりも高い割合(45.3%)で、肺で観察されました。これより、「DOX封入ビオチン化リポソーム」による修飾は、C3H10T1/2細胞の肺病巣への移行に影響を与えないことが分かりました。

皮下担がんモデルマウスの場合と同様に上記①〜⑤を、肺転移モデルマウスに静脈注射したところ、実験開始14日後において「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」を投与したマウスでは、他の群とは異なり、完全に腫瘍成長が抑制されました。また、このマウスでは、肺重量、体重、および臓器の異常を示す各種物質の値などにも未処置群との間に有意な差は見られませんでした。このことから、「DOX封入リポソーム修飾C3H10T1/2細胞」を用いたがん治療の有効性と安全性が示されました。

本研究成果について草森助教は、「間葉系幹細胞は、従来の治療薬では送達が困難であった脳腫瘍や微小ながん病巣にも移行することが報告されているため、本研究の技術はこのような難治性がんに対しても有効性を示す可能性があります。また、間葉系幹細胞の表面に様々な薬物を封入したナノ粒子を修飾することにより、細胞移植治療法の更なる発展に貢献できる」としています。

※ 本研究は、日本学術振興会の科学研究費若手研究(B)(15K18850)および特別研究員奨励費(20J14253)、ならびに公益財団法人総合工学振興財団の助成を受けて実施したものです。

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論文情報

雑誌名 Journal of Controlled Release
論文タイトル Anticancer drug-loaded mesenchymal stem cells for targeted cancer therapy
著者 Yukiya Takayama, Kosuke Kusamori, Chihiro Tsukimori, Yosuke Shimizu, Mika Hayashi, Ikumi Kiyama, Hidemasa Katsumi, Toshiyasu Sakane, Akira Yamamoto, Makiya Nishikawa
DOI 10.1016/j.jconrel.2020.10.037

西川研究室
西川研究室のページ:https://www.rs.tus.ac.jp/nishikawa_lab/
草森助教のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?6ea5

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