2020.12.15 Tuesday

ボロンドープダイアモンド電極を用いた電気化学反応により、 尿素からアンモニウムイオンを生成することに成功!
~宇宙ステーションにおける窒素の持続可能な利用を実現するための技術開発に期待~

研究の要旨とポイント
  • ●ボロンドープダイアモンド電極を用いた電気化学反応により、尿素をほぼ完全に分解し、アンモニウムイオン(NH4+)が生成することを明らかにしました。
  • ●ボロンドープダイアモンド電極と多孔性酸化チタンの光触媒を併用することで、NH4+の生成量が増加することを見出しました。また、これらに伴い光触媒を使用していない時に生成していた亜硝酸イオン(NO2-)と硝酸イオン(NO3-)の量が減少したことを明らかにしました。
  • ●常温・常圧の条件下で尿素からNH4+の生成を可能にした本研究は、アンモニア(NH3)の工業的製法において、エネルギー効率の良いプロセスとしての可能性を示すと共に、極限閉鎖空間での窒素の持続可能な利用を実現するための技術開発に貢献するものと期待されます。

東京理科大学総合研究機構光触媒国際研究センターの鈴木孝宗講師、株式会社オーク製作所の岡崎晟大氏、高木海氏、芹澤和泉氏らの研究グループは、ダイアモンドの結晶にホウ素を添加したボロンドープダイアモンド電極(BDD電極)を用いた電気化学反応により、尿素からNH4+を生成することに成功しました。この化学反応においては、原料となる尿素が、ほぼ完全に分解していることを確認しています。またBDD電極と多孔性酸化チタンの光触媒を併用することで、尿素から生成されるNH4+の量が増加することを見出しました。

窒素は、リンやカリウムとともに、植物の成長に欠くことができない三大栄養素のひとつとして知られています。一般的に、NH4+やNO3-などの無機窒素化合物は、植物の窒素源として利用されています。一方、私たちの社会では、さまざまな窒素化合物が工業的に生産されており、化学肥料に含まれるNH3を代表とした無機窒素化合物も生産されています。したがって、私たちが生きていく中で、NH3やNH4+はとても重要な無機窒素化合物であると考えることが出来ます。本研究では、NH4+を生成するプロセスとして、尿素の酸化分解に着目し、環境にやさしく、費用対効果のある電気化学的手法を利用しました。

なお本研究は、不要なものである尿から有用なNH3を作り出すというコンセプトが評価され、論文を掲載した英国化学会発行『New Journal of Chemistry』誌のFront Coverに選出されました。

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研究の背景

窒素は核酸やアミノ酸などに含まれ、リンやカリウムとともに植物の成長にとって必須の元素となっています。しかしながら、大気中に存在するN2ガスは、化学的反応性に乏しく、植物は窒素分子を直接利用することが出来ません。そのため、NH4+やNO3-は、植物の窒素源として必要とされており、化学肥料の製造において工業的に生産されています。NH4+やNO3-の無機窒素化合物の中でも、最も還元的なNH4+は、植物にとってエネルギー効率のよい窒素源であるため、とても重要な窒素化合物と考えられます。一方、私たちの社会においては、NH3やNH3の持つ特性の利用が進められています。例えば、エネルギー分野においては、水素ガスキャリアとしてNH3が注目されています。NH3は常圧でマイナス33℃という条件で液化するため、貯蔵や輸送の面で高い優位性があるためです。また、水素のエネルギーキャリアにNH3を利用することは、引火や爆発の危険性を下げることにも繋がると考えられています。また、工業分野においては、長い間、金属の触媒を利用して窒素と水素からNH3の製造が行われています(ハーバー・ボッシュ法)。ただ、この手法は、高温(20-40MPa)・高圧(400-600℃)の条件下で行われるため、大量のエネルギーを必要としています。現在、エネルギー消費の少ないNH3の生成法を開発することが重要な課題のひとつになっています。

本研究では、排泄物に含まれる尿素の酸化分解に着目し、液体肥料として使用が期待できるNH4+の生成を試みました。これは、ヒトの老廃物を有効活用する視点からも意義があると考えられます。また、環境にやさしく、費用対効果を得るために、常温常圧下で特殊な装置を用いないことも考慮しました。こうした要件を満たすための手段として、BDD電極を利用した電気化学的手法を採用しました。BDD電極の特徴は、通常の電極材料に比べて電位窓が広く、バックグランド電流が小さい、物理化学的に安定であるなど、優れた電気化学的な特性をもっていることがあげられます。電位窓が広いBDDは、高い電圧のもとで水の酸化を可能とし、酸化力がある活性酸素を生成することが可能となります。今回、BDD電極を用いた電気化学反応によって、尿素からNH4+が生成することを報告しました。さらに、BDD電極と多孔性酸化チタンの光触媒を併用すると、生成するNH4+にどのような影響が起こるか調べました。

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研究結果の詳細

実験では、二つのガラスセルから構成されるH型の電気化学セルを使用しました。片側のセルにBDD電極を取付け、反対のセルには、Pt電極を取り付けました。また、二つのセルの間にはNRE-212ナフィオン膜(Sigma-Aldrich社製)を用いて仕切りました。ナフィオン膜は、電気化学セルにおけるセパレーター役として使用しており、セルの結合部分において選択的な陽イオン輸送を可能とします。また、BDD電極側のセルに取りつけた酸化チタンの光触媒を使用する場合は、207nmの紫外線を発生するKr-Brエキシマランプを取付けて使用しました。なお、本実験では、1%塩化ナトリウム溶液に尿素を加えた簡易的な模擬尿を使用しました。

BDD電極とPt電極のみによる尿素の電気化学的分解を行う実験では、セル中の尿素濃度に明らかな時間依存性がありました。すなわち、BDD電極側のセルに入れられた尿素は、実験開始から時間の経過が進むとともに分解が進み、18時間を経過するとほぼすべての尿素が分解しました。この結果はこれまでに報告された研究結果とも一致しました。一方、尿素の分解により、生成される無機窒素化合物(NH4+、NO2-、NO3-)の濃度は、時間の経過とともに増加し、12 時間を経過すると頭打ちになりました。BDD電極側のセル中で無機窒素化合物を検出されたことは、尿素が電気化学的に酸化分解したことを意味すると考えられます。尿素の酸化は、BDD電極の表面で生成するOHラジカルに関連しているとの報告があります。また、OHラジカルは、中間体の酸化によって生成するNH4+やNO2-、NO3-に関わっているとの報告もあります。Parkらは、尿素とOHラジカルの間の反応について、つぎに示すようなプロセスを提案しています(Environ. Sci. Pollut. Res., 26, 1044-1053 (2019))。 はじめに、OHラジカルは、NO基を生成するために尿素を構成するNH2基と反応します。つぎに、OHラジカルは、NH2CONO2を生成するためにNO基と反応します。そして、NH2CONO2の加水分解によりNO2-が生成します。さらにOHラジカルによるNO2-の酸化でNO3-が生成します。

今回の実験では、BDD電極側のセルでNO2-濃度が高くなったのちに低くなり、最終的にその濃度がゼロになりました。一方、NO3-濃度は時間の経過とともに増加しました。この結果は、中間体としてのNO2-の生成とNO2-からNO3-への酸化が行われていることを示唆しており、先に説明した尿素の分解プロセスのメカニズムとも整合性が取れています。また、BDD電極側のセル中にあるNO2-やNO3-と比較して、NH4+が多く存在することに関して、反応進行により生成したカルバミン酸から多くのNH4+が生成していることが起因していると考えられました。

つぎに、BDD電極と多孔性酸化チタンの光触媒を併用した実験から、尿素の変化を見たところ、光触媒の使用の有無に関わらず、実験の開始から時間の経過とともに尿素の濃度が低くなっていくことが分かりました。しかしながら、BDD電極側のセル中で検出されたNH4+やNO2-、NO3-の各濃度の変化は、光触媒の有り無しによって異なっており、光触媒が、生成されるNH4+やNO2-、NO3-の濃度に影響を与えていると考えられました。具体的には、BDD電極と多孔性酸化チタンの光触媒を併用した場合、電極側のセル中でNO2-が検出されなくなりました。これは、NO2-からNO3-への酸化が促進されたためと考えられ、光触媒がOHラジカルの生産を高めていると考えられます。また、光触媒を併用すると、BDD電極側のセル中のNO3-濃度が低くなりましたが、Pt電極側のセル中のNH4+濃度は高くなっていました。これは、光触媒によってカルバミン酸からのNH4+の生成が高められた影響が考えられました。こうした現象が起こる正確な理由はまだ解明されていませんが、酸化チタンの伝導帯にある電子が重要な役割を果たしているものと推測されます。

研究成果の将来的な可能性について、鈴木孝宗講師は、「今回は簡易的な模擬尿として、尿素と塩化物イオンのみの溶液試料を使用しましたが、ヒトの尿にはより多くの成分が含まれています。その中には、植物の三大栄養素であるリン、窒素、カリウムの原料のほか、硫黄やカルシウム、マグネシウムといった植物の必須元素の原料も含まれています。そのため、尿を液体肥料に変換することができれば、宇宙ステーションなどの極限閉鎖空間での長期滞在に役立てられると期待しています。今後、こうした方向の研究をさらに進めていく予定です。」と話しています。

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論文情報

雑誌名 New Journal of Chemistry
論文タイトル Formation of ammonium ions by electrochemical oxidation of urea with a boron-doped diamond electrode
著者 Norihiro Suzuki, Akihiro Okazaki, Kai Takagi, Izumi Serizawa, Genji Okada, Chiaki Terashima, Ken0ichi Katsumata, Takeshi Kondo, Makoto Yuasa, and Akira Fujishimai
DOI 10.1039/d0nj03347b

鈴木講師のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?6cb9

光触媒国際研究センターHP:https://www.rs.tus.ac.jp/pirc/
光触媒研究推進拠点HP:https://www.pirc.tus.ac.jp/

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