2020.12.07 Monday

SiC系複合材料のコーティング候補材料
Ybケイ化物の大気中および水蒸気中における酸化挙動を解明
~航空機エンジン部材への応用に期待~

研究の要旨とポイント
  • ●炭化ケイ素(SiC)系複合材料(SiC繊維強化SiC複合材料(SiC/SiC))は航空機エンジン部材の耐熱材料として期待されていますが、燃焼雰囲気から保護するためにはYb系複合酸化物のコーティングが不可欠です。
  • ●本研究ではコーティングとSiC/SiCの結合層(ボンドコート層)としてYbケイ化物に着目し、大気中および水蒸気中における酸化挙動を初めて明らかにしました。
  • ●今後本研究を発展させ、より耐熱性の高いコーティングが実現できれば、航空機エンジンの効率が向上し輸送コストの削減に寄与すると期待されます。

東京理科大学工学部機械工学科の井上遼講師、同大学基礎工学部材料工学科の新井優太郎助教、向後保雄教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の青木卓哉研究員らの研究グループは、航空機のエンジン部材である炭化ケイ素(SiC)系複合材料(SiC繊維強化SiC複合材料(SiC/SiC))を燃焼雰囲気から保護する耐環境コーティング(EBC)の一部であるボンドコート層としてYbケイ化物を用い、大気中及び水蒸気中における酸化挙動を明らかにしました。より高温な環境で使用可能なコーティングが実現できればエンジン部材の耐熱温度が上昇し、エンジンの高効率化を通して燃費が向上すると期待されます。

SiC/SiCはセラミック基複合材料(CMC;Ceramics Matrix Composites)のひとつであり、航空機のガスタービンエンジン用の耐熱材料の候補物質として有望視されています。エンジン内部で燃料が燃焼する際、部材は高温・高圧・水蒸気環境に曝されるので、SiC系複合材料をエンジン部材として使用するためには表面を守るコーティングが欠かせません。
EBCは外環境に曝されるトップコート層(主にYb系複合酸化物)と基材とトップコート層の間に位置するボンドコート層(従来材料はシリコン(Si)単体)で構成されます。ボンドコート層には基材への空気・水蒸気の侵入抑制に加えてトップコート層と基材の密着性を高めるという機能もあります。
今回、研究グループはYbケイ化物で構成されるEBCのボンドコート層として2種類のYbケイ化物Yb5Si3とYb3Si5に着目し、大気中、水蒸気50vol%を含む大気(以下「大気+水蒸気」)中、および水蒸気中における酸化挙動を評価しました。その結果、Yb3Si5は未酸化領域が大気+水蒸気中および水蒸気中で残留したものの、Siの融点(1414℃)よりも低い温度で液相が生じました。Yb5Si3では熱曝露によって液相は生じなかった一方、大気+水蒸気中および水蒸気中で熱曝露を受けたYb5Si3ではYb3Si5よりも酸化が進み、EBCの剥離につながるとわかっている二酸化ケイ素(SiO2)の生成量も多いことがわかりました。
本研究成果は、Ybケイ化物のEBCのボンドコート層としての性能を評価した重要な成果です。より高温な環境で使用可能なコーティングが実現できればエンジン部材の耐熱温度が上昇し、エンジンの高効率化を通して燃費が向上することで、航空機の輸送コストが削減できると期待されます。

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研究の背景

SiCの耐酸化性は、表面にSiO2の保護膜が形成されることにより発揮されます。しかし、エンジン燃焼雰囲気のような1300℃以上の水蒸気雰囲気下ではSiO2と水蒸気が反応し、気体のSiOyHyを生成することで厚みが減少していきます。従って、高温・高圧下でSiC/SiCを使用するためには水蒸気雰囲気にSiC/SiCが直接曝露しないようにコーティングが不可欠です。SiC/SiCを保護するコーティングはトップコート層と呼ばれ、主にYb系複合酸化物としてYbモノシリケート(YbMS:Yb2SiO5)やYbダイシリケート(YbDS:Yb2Si2O7)が使用されます。基材との密着性向上と熱膨張係数差の緩和を目的としてトップコート層と基材の間に従来はSiのボンドコート層が用いられ、トップコート層とボンドコート層をまとめて「EBC」と言い、そこに基材を含める場合「EBCシステム」と呼称します。
EBC内部での酸素の拡散もしくはトップコート層に生じたクラックから侵入した酸素によって、ボンドコート層が酸化してSiO2の結晶形の一つであるクリストバライトが生じます。クリストバライトには低温型のα相と高温型のβ相が存在し、220℃付近でβからαに相転移すると体積が4.5%も減少することから、ボンドコート層内にEBC全体の剥離につながるクラックを生じます。
こうした問題を解決する材料としてレアアースを含むケイ化物が注目されています。レアアースを含むケイ化物のうちYbケイ化物の融点は、従来材料であるSi(融点:1414℃)よりも高いため候補材料としてYbケイ化物に着目しました。さらに、Ybケイ化物から形成される酸化物はEBCの酸化物被覆であるYb系複合酸化物になります。
そこで本研究では、YbとSiの原子比が大気中及び水蒸気雰囲気中での酸化挙動に与える影響を明らかにすることを目的にYb5Si3とYb3Si5を作製し、1200℃で曝露した際の組織および重量変化を評価しました。

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研究結果の詳細

大気中で加熱した場合、Yb3Si5は容易に酸化し,酸化物としてYb2O3、YbMSやYbDSが形成され、単体のSiが残留しました(図1a,d)。一方、大気+水蒸気中および水蒸気中ではYbケイ化物(Yb3Si5+SiもしくはYbSi2-x+Si)の共晶で形成される未酸化領域が生成しました(図1b,c)。大気+水蒸気中では、酸化領域はYb2O3+Si+YbMS(YbDS)が形成されました。どちらもSiが残留していることからYb3Si5中のYbが優先的に酸化してYb2O3が形成されたと考えられます。これに伴い、相対的にSiの濃度が共晶を形成するしきい値である63.5at%以上に上昇することで熱曝露中に共晶を形成しました。共晶の形成は液相形成温度をSiの融点以下である1145℃まで低下させることがわかります。
一方、Yb5Si3は大気中における熱曝露中にYbの優先的な酸化に伴いYb3Si5に相変態することがわかり,Yb3Si5と同様の酸化挙動を示しました。水蒸気中では未酸化領域を形成しましたが、Yb3Si5とは異なり直径数μm程度の明確なSiO2の形成が確認されました。これはYb-Si状態図でYb5Si3からYbが優先的に減少して相変態が生じる際に、Siが安定相として存在しないため、酸化されてSiO2として観察されたものと考えられました。これは従来のSiボンドコートと同様にEBCの剥離につながる亀裂を生成すると推測されました。
Yb5Si3とYb3Si5の断面の電子顕微鏡写真を解析したところ、酸化層の厚さは酸素分圧に大きく影響されると考えられました。また、Yb2O3およびSiO2の反応を通じたYbケイ化物の形成はYb5Si3とYb3Si5両方で確認されました。SiO2の形成はYbMS及びYbDS形成の律速となっているため、YbMS及びYbDSの形成により結果としてSiO2成長は抑制されていました。

本研究は、航空機用エンジンのEBCのボンドコート層としてYb5Si3とYb3Si5に着目し、大気中および水蒸気中における酸化挙動を初めて明らかにしました。今後本研究を発展させ、より高温な環境で使用可能なコーティングが実現できればエンジン部材の耐熱性が向上し、エンジンの高効率化に寄与すると期待されます。

SiC系複合材料のコーティング候補材料Ybケイ化物の大気中および水蒸気中における酸化挙動を解明~航空機エンジン部材への応用に期待~

図1.(a)大気中、(b)大気+水蒸気中、(c)水蒸気中で1200℃に4時間曝露後のYb3Si5の表面および断面写真。(d)熱曝露後のX線回折パターン。

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論文情報

雑誌名 Intermetallics
論文タイトル Oxidation behavior of ytterbium silicide in air and steam
著者 Toshihisa Miyazaki, Syo Usami, Yutaro Arai, Toru Tsunoura, Ryo Inoue, Takuya Aoki, Ryuji Tamura, Yasuo Kogo
DOI 10.1016/j.intermet.2020.106992

井上研究室
研究室のページ:https://www.inouelab.jp/
大学公式ページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?6b7c
新井助教のページ
大学公式ページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?7203
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