2020.07.10 Friday

オキシトシンがアルツハイマー型認知症に関連する神経活性の障害を改善
~ 新たな作用機序を有するアルツハイマー型認知症の治療薬開発に期待~

研究の要旨とポイント
  • ●高齢化が進展する日本においてアルツハイマー型認知症の患者数は増えつつあり、新たな治療薬の開発が求められています。
  • ●オキシトシンがアルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドベータ(Aβ)による海馬ニューロンの神経活性障害を改善させることを示しました。
  • ●本研究はオキシトシンがアルツハイマー型認知症の治療薬候補ターゲットとなることを示唆した世界で初めての報告であり、新しい作用機序を有する認知症治療薬の開発につながることが期待されます。

東京理科大学薬学部薬学科の斎藤顕宜教授らの研究グループは、オキシトシンがアルツハイマー型認知症に深く関与するアミロイドベータ(Aβ)による海馬ニューロンの神経活性障害を改善することを明らかにしました。

高齢化が進展する日本においてアルツハイマー型認知症患者は増加の一途をたどり、大きな社会問題となっていますが、いまだ有効な治療法が確立されておらず、新しい作用機序による治療薬の開発が望まれています。
アルツハイマー型認知症は、脳内に蓄積したAβが神経細胞のシナプスなどを障害することで発症すると考えられています。今回、研究グループは、ペプチドホルモンであるオキシトシンは子宮収縮や乳汁分泌だけでなく、動物の認知機能や学習にも関わることに着目し、Aβによって誘発される認知機能障害とオキシトシンの関係性について電気生理学的な手法を用いて調べました。

その結果、Aβによって誘発される海馬ニューロンの神経活性の障害を、オキシトシンが回復させることがわかりました。そしてその背景には、オキシトシン受容体、シナプス可塑性に重要な役割を担うERK活性化およびCa2+透過性AMPA受容体が関与するという分子メカニズムがあるということが示唆されました。

本研究成果は、オキシトシンがアルツハイマー型認知症の治療薬候補ターゲットとなりうることを示した世界初の報告です。今後、オキシトシンの効果を利用した認知症治療薬の開発が期待されます。

研究の背景

アルツハイマー型認知症は認知症の一種であり、高齢者に多く見られる疾患です。アルツハイマー型認知症においては脳が萎縮しており、その原因物質としてAβが特定されています。Aβはアミロイド前駆体タンパク質の代謝産物として合成されますが、蓄積することで不溶性アミロイド原繊維の形成が引き金となり、発病に至ります。実際、Aβを曝露すると学習と長期記憶に重要な長期増強(LTP)(※1)や細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)/サイクリックAMP応答配列結合タンパク質(CREB)のリン酸化が脳の海馬で抑制されることが、確認されています。

一方で、オキシトシンは脳の視床下部室傍核で合成されるペプチドホルモンであり、主に子宮収縮や乳汁分泌などの血中に分泌されるホルモンとしての作用がよく知られています。それに加え、近年ではオキシトシンは動物の認知機能や学習機能にも影響を与えることが報告されています。さらに、オキシトシンを分泌する神経の多くが認知機能に重要な役割を果たす海馬に投射しています。しかし、オキシトシンと認知機能および学習機能との関係は十分検討が進んでいません。そこで研究グループは、オキシトシンとAβによって誘発される認知機能障害の関係性について調べました。

研究結果の詳細

マウスの海馬のスライス標本(※2)にAβを曝露し、電気生理的手法を用いて海馬の神経活性(興奮性シナプス後場電位)の測定を行ったところ、LTPが有意に障害されていることがわかりました。しかし、そこにオキシトシンを加えるとLTPの障害は回復し、Aβもオキシトシンも加えられていない対照群の場合とほぼ同じLTP活性に戻りました。

次に、Aβにオキシトシンを加えた際のLTP活性の回復効果の背景にある分子機構について検証しました。まず、オキシトシン受容体の拮抗薬(L-368,899)を加えたところ、オキシトシン添加によるLTPの回復効果は見られませんでした。一方で、ERKのリン酸化はLTPに重要であり、オキシトシンはERK/CREBのリン酸化を促進することが過去の研究で報告されています。そこで、ERKのリン酸化がAβ誘発性LTP障害の回復に関わっているか調べるためにERKリン酸化障害剤(U0126)を加えたところ、同様にオキシトシンによるLTPの回復が見られませんでした。

また、オキシトシンは、内側前頭前皮質において記憶と学習に重要なAMPA受容体の遺伝子発現を促進することが示唆されていることから、オキシトシンとCa2+透過性AMPA受容体の関係性についても調べました。Ca2+透過性AMPA受容体拮抗薬(NASPM)を加えたところ、Aβ誘発性LTP障害のオキシトシンによる改善効果は抑制されました。

以上のことから、オキシトシンがアルツハイマー病の認知機能に関与しており、その分子メカニズムには、オキシトシン受容体、シナプス可塑性に重要な役割を担うERK活性化およびCa2+透過性AMPA受容体が関与していることが示唆されました。

本研究は、オキシトシンがアルツハイマー型認知症の治療薬候補ターゲットとなることを示唆した世界で初めての報告です。現在、十分効果があるアルツハイマー型認知症の治療薬は完成しておらず、新しい作用機序による治療薬開発が望まれています。本研究成果は、新しい作用機序による認知症治療薬を創出することに繋がることが期待されます。

論文情報

雑誌名 Biochemical and Biophysical Research Communications
論文タイトル Oxytocin reverses Aβ-induced impairment of hippocampal synaptic plasticity in mice
著者 Junpei Takahashi, Daisuke Yamada, Yudai Ueta, Takashi Iwai, Eri Koga, Mitsuo Tanabe, Jun-Ichiro Oka and Akiyoshi Saitoh
DOI 10.1016/j.bbrc.2020.04.046

用語

※1 長期増強(LTP):神経細胞間でのシナプスにおける信号伝達効率が長期に渡って上昇する現象であり、学習と記憶を司る重要なメカニズムの一つ。
※2 スライス標本:400μm程度の厚さにスライスした標本のこと。脳細胞を生きたまま維持することで、脳回路の多くが保存された状態で実験を行うことができる。

斎藤研究室
研究室のページ:https://yakurisaitohlab.jimdofree.com/l
斎藤教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?7017

記事トップ

お問い合わせ

東京理科大学 広報課

e-mail: koho(アットマーク)admin.tus.ac.jp

〒162-8601 東京都新宿区神楽坂1-3

ページのトップへ