2020.02.27 Thursday

光エネルギーで有機廃液を浄化、同時に水素を取り出す技術開発に成功
~持続可能社会に道:どこにでもある物質「鉄サビ」を光触媒として利用~

研究の要旨とポイント

  • 地球上に豊富に存在する鉄サビの一種「オキシ水酸化鉄(FeOOH)」の光触媒反応を利用して、工場などから出る有機廃液を光エネルギーで浄化すると同時に、廃液から水素を取り出す一挙両得の技術開発に成功しました。
  • 現在、光触媒反応を利用した汚れの浄化には酸化チタン(TiO2)がよく使われており、例えば、ガラス表面のコーティング材などとして利用されています。今回、開発に成功したオキシ水酸化鉄の光触媒反応による有機化合物の分解能に伴う水素生成量は、この酸化チタンの25倍もあることが実験で確かめられました。
  • 将来、どこにでもあり、ありきたりな資源である太陽光と鉄サビを利用して、汚染水の浄化による安全・安心な水の確保と同時に、持続可能なエネルギー源である水素を大量に生産できる可能性があります。

東京理科大学基礎工学部材料工学科の勝又健一准教授らの研究グループは、「オキシ水酸化鉄(FeOOH)」に適切な条件下での光を照射すると、工場や農場から排出される有機廃液を光触媒反応で浄化できることを明らかにしました。オキシ水酸化鉄は、太古の昔からごく身近に存在しているありきたりな物質である鉄サビです。また、水質浄化と同時に、エネルギー源として利用できる水素を取り出せることも分かりました。この研究成果は、Chemistry - A European journal誌に掲載されました。

光触媒とは、吸収した光をエネルギー源として、通常では進行しない化学反応を促進させる物質のことです。つまり、光触媒反応を上手に利用できれば、光エネルギーを化学エネルギーに変換して貯蔵できることになります。将来的には、太陽光エネルギーを使って水を分解し水素を発生させ、エネルギー源として利用できる可能性があります。

また、空気中や水中で光触媒材料に光が当たると電子が励起され(エネルギーの高い状態になり)、水や酸素と反応して活性酸素が発生します。活性酸素には極めて強い酸化力があるので、アルコールをはじめとするほとんどすべての有機化合物は酸化分解してしまいます。つまり光触媒には、抗菌、汚れ分解、脱臭などの機能があるのです。現在、光触媒として実用化されている酸化チタンは、この性質を利用して、ガラスやタイルなどのコーティング、空気清浄器のフィルターなどに使われています。今回の実験で、水銀キセノンランプ(紫外光)照射下においてオキシ水酸化鉄の光触媒反応による水素生成・有機化合物分解能は、酸化チタンの25倍もあることが分かりました。今後、オキシ水酸化鉄が可視光に応答するように材料創製することで、酸化チタンに代わる光触媒材料として世の中の注目を集める可能性を秘めています。

【研究の背景】

光エネルギーを使って水から水素(H2)を取り出す技術として、多くの半導体の光触媒反応を利用することが、これまで提案されてきました。そのきっかけとなったのが、1972年にNature誌に発表された「本多・藤嶋効果」です。発表者の名前に由来するこの効果とは、白色の塗料や顔料などに使われている酸化チタンに光を当てると、光エネルギーによって水が水素と酸素に分解される光触媒反応のことを指します。光触媒とは、照射された光をエネルギー源として、普通では進行しない化学反応を促進させる物質のことです。つまり、光触媒によって、光のエネルギーを物質に蓄積することができるのです。

植物による光合成はいわば天然の光触媒反応ですが、この反応を人工的に起こして光エネルギーを化学エネルギーに変換する技術開発が活発に行われています。無限にある太陽光のエネルギーから水素や有機物質を生産できる人工光合成の技術が実用化できれば、環境に優しい持続可能なエネルギー源を獲得することができます。
石油などの化石燃料は、枯渇に対する懸念が高まっているばかりか、その消費によって大気中に大量に放出された二酸化炭素による地球温暖化対策が世界的な課題となっています。光触媒反応によって生成できる水素は燃料電池などのエネルギー源として有用です。水素による燃料電池は発電の効率が良いことに加えて、電気のほかには水しか生成されないため、環境を汚染しないクリーンな電池でもあります。このことから、光触媒による人工光合成の技術は、地球規模の環境・エネルギー課題を根本的に解決する技術の一つとして期待されています。

また、酸化チタンなどの光触媒に光が当たって酸化還元反応が起きると、活性酸素が発生します。活性酸素は極めて強い酸化力があるため、汚れや微生物など、ほとんどすべての有機物を分解することができます。この性質を利用して、汚染水や大気を浄化しようとする技術開発も行われています。

鉄は自然界に最も豊富に存在する遷移金属元素です。非常に酸化・還元されやすい物質でもあり、酸化還元のサイクルを利用して水素を取り出す反応は生物や工業の分野で幾つも知られています。しかし、オキシ水酸化鉄はこれまで水素イオン(H+)の還元と水素分子(H2)の生成には向かないと考えられていた物質で、光触媒としての適用報告もほとんどありませんでした。

【研究結果の詳細】

研究チームはこれまで、「世の中に多く存在する元素からなる物質は、地球の環境(自然)にとって重要な役割を果たしている」とのコンセプトのもと、研究に取り組んできました。今回の研究の具体的な目的は、地球上に豊富に存在し、無害かつ環境に優しい「鉄」を原料としたオキシ水酸化鉄、いわゆる鉄サビの光触媒としての機能に着目し、その性質を解明することでした。

実験ではまず、オキシ水酸化鉄を光触媒として利用することで、模擬汚染水と見なしたメタノール水溶液から水素が発生するかどうかを確認しました。pHを2に調整したメタノール水溶液にオキシ水酸化鉄を入れ、水銀とキセノンガスを封入した水銀キセノンランプの光を照射すると、予想通り水素が発生しました。

次に、発生した水素が水由来なのか、それともメタノール由来なのか、目印として同位体の重水素に置き換えた水と、同様に重水素の目印をつけたメタノールを使って確認する実験を行いました。確認方法は、次の通りです。<目印として同位体の重水素に置き換えた水に、メタノールを加えた水溶液>と、<普通の水に、同位体の重水素の目印をつけたメタノールを加えた水溶液>の2つの水溶液を最初の実験と同様の状態に調整し、水銀キセノンランプの光を照射しました。発生した水素の同位体の違いをガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)で確認したところ、発生した水素の一部は、普通の水由来であることが分かりました。

どのような条件だと最も水素が発生しやすいのかを調べたところ、溶液が酸性であるほど水素の発生量が多くなり、pHが1だとpHが9のときより20倍も発生量が多くなることが分かりました。また、水溶液に還元剤を入れた方が、水素の発生量が多くなることも確認できました。有機化合物としては、調べた中ではプロパノールを水溶液に入れたときに最も水素発生量が多く、メタノール、ヘキサノール、エタノール、シュウ酸の順に発生量は少なくなりました。ほかには、酸素濃度が濃いほど発生量が多くなり、紫外線を当てる必要があることも分かりました。

他の光触媒と比較したところ、オキシ水酸化鉄の水素発生量は、現在最もポピュラーな光触媒として市場に出回っている酸化チタンの25倍にもなることが確認できました。

今回の研究成果の将来的な可能性について、勝又健一准教授は「オキシ水酸化鉄が可視光で同じような活性を示すように材料創製することで、太陽光と鉄サビで汚染された水を浄化し、安心・安全な水の確保が可能となるだろう。環境浄化とエネルギー生産を兼ね備えた材料開発の基となる研究だと考えている」と話しています。

※本研究は、日本学術振興会科学研究費の若手研究A(25708037)、および、基盤研究B(16H04498)の助成を受けて実施したものです。

【論文情報】

雑誌名 Chemistry - A European journal
論文タイトル Hydrogen Production System by Light-Induced α-FeOOH Coupled with Photoreduction
著者 Tetsuya Yamada, Norihiro Suzuki, Kazuya Nakata, Chiaki Terashima, Nobuhiro Matsushita, Kiyoshi Okada, Akira Fujishima, and Ken-ichi Katsumata
DOI https://doi.org/10.1002/chem.201903642

光触媒国際研究センター
研究センターのページ:https://www.rs.tus.ac.jp/pirc/index.html
勝又准教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?6c51
寺島教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?673c
鈴木講師のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?6cb9


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