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2020.01.21 Tuesday

アメーバ細胞の動態を定量的に解析する画像解析プログラムを開発
~位相差顕微鏡で観察可能なさまざまな細胞や、多分野への応用に期待~

研究の要旨とポイント

  • 経時的に撮影された複数の位相差顕微鏡画像を使い、アメーバ細胞の大きさや形状の変化、数や動きなどを定量化できる画像解析プログラム「PKA3」を新たに開発しました。
  • 巨大ウイルスに感染したアメーバを対象に、PKA3を用いて解析を行なった結果、巨大ウイルス感染の有無が、アメーバの増殖や形状、運動などに影響を与えることを定量的に示しました。
  • 巨大ウイルスは、粒子サイズやゲノムが通常のウイルスよりも大きく、生物とウイルスの中間的な特徴を持つ存在です。武村教授らは2019年に、日本の河川敷の土壌中から世界最大のウイルス「パンドラウイルス」を分離することに成功し、土壌が巨大ウイルスの主要な発生源の一つであることを突き止めるなど、巨大ウイルスの自然環境中の分布と、感染が生物の生存や進化に与える影響について研究しています。
  • PKA3に用いられた技術は、位相差顕微鏡で観察可能なすべての細胞に応用できるため、今後の細胞生物学の発展に大きく貢献すると期待されます。
アメーバ細胞の動態を定量的に解析する画像解析プログラムを開発 ~位相差顕微鏡で観察可能なさまざまな細胞や、多分野への応用に期待~

東京理科大学大学院理学研究科科学教育専攻の博士課程3年深谷将、理学部第一部教養学科の武村政春教授らの研究グループは、巨大ウイルスに人為的に感染させた単細胞生物アカントアメーバを、位相差顕微鏡を用いて経時的に撮影し、得られた画像を解析して、細胞の大きさや形状の変化、数や動きなどを定量化できるプログラムを開発しました。

位相差顕微鏡は、光の回折と干渉という現象を利用して試料の拡大像を得る、光学顕微鏡の一つです。透明で薄い試料の観察に特に力を発揮する顕微鏡であり、試料を通り抜けた光と、試料によって回折された光の間にうまれる位相差を、明暗のコントラストに変換することで像を得ます。細胞を染色せずに生きたまま観察できるため、細胞生物学や臨床医学などの分野で幅広く用いられています。
しかし、位相差顕微鏡はその原理上、試料の輪郭部分にオーラ状の光が生じるハローや、内部組織と背景の明るさが同化してしまうShade-offが起こることがあり、既存の画像解析技術を適用することは困難です。そこで研究グループは、得られた像の上で背景から分離されて見える塊をそれぞれ粒子として検出するため、強度が不連続に変化する場所からハローを除いて粒子を捉え、さらに粒子の数や大きさ、時間的な挙動を定量的に解析するプログラム(PKA3:Phase-contrast-based Kinetic Analysis Algorithm for Amoebae)を開発しました。

本研究では、アカントアメーバを対象として、位相差顕微鏡で観察・解析を行いました。アカントアメーバは、土壌などにごく普通にみられる原生動物で、ヒトや家畜などにアカントアメーバ角膜炎を引き起こす病原微生物でもあります。このアカントアメーバに巨大ウイルスを感染させると、細胞変性効果(CPE)と呼ばれる幾つかの特徴的な細胞動態を示して、その後死亡します。しかしこの細胞動態の定量的な評価は、これまで行われてきませんでした。研究グループは、PKA3法を用いることで、巨大ウイルスに感染させたアカントアメーバと非感染のアカントアメーバについて、細胞数や形態変化の違いを定量的に評価することに成功しました。

本研究で開発されたプログラムに用いられた技術は、位相差顕微鏡で観察可能なすべての細胞に応用できるため、細胞生物学、医学、生物工学など、様々な分野での応用が可能と考えられています。多細胞生物における免疫反応や神経網の形成など、さまざまな生体プロセスにおける細胞の挙動を定量的に解析することができれば、生命現象の理解がよりいっそう深まると期待されています。

【研究の背景】

1.位相差顕微鏡とは
位相差顕微鏡を含めた光学顕微鏡では、観察したい試料に光を当て、試料を透過した光(直接光)と、試料に当たって回折された光(回折光)を対物レンズで集めて像を得ています(光の当て方により、回折光ではなく試料で反射された反射光を使うものもあります)。
試料が染色されていたり、もともと不透明だったりする場合、回折光は試料によって吸収され、振幅が変化しているため、直接光との間に明るさの差が生じます。試料の染色部分などが、明るい視野の中にそこだけ暗く見えるのはそのためです。しかし、透明な試料では、回折光は試料による吸収を受けておらず、このままでは明暗の差による像を得ることはできません。だからと言って試料を染色してしまえば、生きている細胞の自然な動態が損なわれるだけでなく、細胞を殺してしまうこともあります。

位相差顕微鏡では、この問題を解決するため、直接光と回折光の間に生じる位相の違いを利用しています。たとえ試料が透明であっても、回折光は直接光と比べると、試料の影響を受けた分だけ僅かに速度が遅れます。光の波長(色)も振幅(強度)も変わりませんが、波形のピークが僅かに後ろにずれるのです。このずれを「位相差」といい、位相差顕微鏡には直接光と回折光の位相差を光の強度の差に変換するためのフィルタが備えられています。これにより、一般的な光学顕微鏡と同じように、明暗のコントラストを持った像が得られます。細胞を染色することなく、自然な動態を観察することができるため、細胞生物学や臨床医学などの分野で特に有用です。しかし、光の位相差を利用するその特性のため、試料の輪郭にオーラ状に光が染み出して見えるハローや、大きな試料の内部の明るさが背景と同化してしまうshade-offが起こりやすく、このことが解像度の低下や、既存の画像解析技術の適用の難しさにつながっていました。
研究グループでは、タイムラプス撮影された複数の位相差顕微鏡画像を使い、C言語およびC++言語を使用したプログラム「位相差を利用したアメーバの動態観察アルゴリズム(PKA3:Phase-contrast-based Kinetic Analysis Algorithm for Amoebae)」を新規開発して、アカントアメーバと、アカントアメーバに感染した巨大ウイルスのサイズや形状、数、動きなどを定量化することに成功しました。

2.アカントアメーバと巨大ウイルス
巨大ウイルスとは、粒子の直径がおよそ200ナノメートル以上、ゲノムサイズが30万塩基対以上で、ヒストンや一部のRNA合成酵素など、通常のウイルスでは見つかっていなかった特徴を持つウイルスの総称です。2003年に初めて発見されて以来、現在では、海水中や湖水中などに多くの種が存在していることがわかっています。武村教授らのグループは、2016年に東京湾沿岸の海中や東京都荒川の河川敷の泥から日本初となる巨大ウイルス「トウキョウウイルス」を、2019年に荒川河川敷の泥の中から世界最大のウイルス「パンドラウイルス」をそれぞれ分離しており、これらの結果は巨大ウイルスが日本の土壌環境に広く分布することを示唆しています。
これらの巨大ウイルスの自然状態の宿主はわかっていませんが、アカントアメーバに感染させるとよく増えることはわかっています。巨大ウイルスに感染したアカントアメーバは、本来不定形であるはずの細胞の形が丸くなったり、シストと呼ばれる休眠状態に入ったり、細胞が溶解したりと、幾つかの特徴的な細胞動態を示したのち、最終的には死に至ります。今回の研究では、巨大ウイルスに感染させたアカントアメーバと感染させていないアカントアメーバについて、それぞれの動きや形態変化をPKA3により定量化し、感染の有無による動態の違いを比較しました。

【開発の詳細】

アカントアメーバの一種Acanthameba castellanii(以下、アカントアメーバ)を3つのグループに分け、そのうち2つのグループ(感染群)には、武村教授の研究室で単離されたマルセイユウイルス科(Marseilleviridae)に属する2系統の巨大ウイルス、ホクトウイルス(hokutovirus)とキョウトウイルス(kyotovirus)をそれぞれ感染させました。もう1つのグループは、いずれも感染させない対照群としました。3つのグループをそれぞれ培養し、位相差顕微鏡を用いて、45秒に1回のペースで感染36時間後まで、計2,880枚の撮影を行いました。

得られた画像から細胞を識別するために、画像上で強度が不連続に変化する場所を試料の輪郭として捉え、何重もの複雑な輪郭に囲まれた領域の中からハローらしい部分を除去し、粒子らしい部分のみを検出しました。この検出方法は、ハローを無視できるわけではないため、粒子の細かい形を高い解像度で観察することには適しません。しかし、粒子の数を数え、粒子の大きさや円形度(円形にどの程度近いかを示す数値)を算出するには十分です。さらに、各画像を次の画像と比較して最も近い位置にある粒子同士を、同一の細胞が移動したものとみなすことで、細胞が移動した距離を定量的に測定することもできるようになりました。これらの一連の解析を自動化したプログラムを、PKA3と名付けました。

PKA3を用いて、感染群と対照群のアカントアメーバの時間的な動態を比較した結果、対照群のアカントアメーバは観察開始後36時間まで徐々に増殖し続けるのに対し、感染群のアカントアメーバは感染直後こそ対照群と同様に増殖するものの、感染12時間後には減少に転じました。また、観察開始から約12時間後の時点では、細胞の外見や増殖の様子に大きな違いはみられないにも関わらず、感染群の平均移動距離は、対照群の平均移動距離より短くなっていました。これは、ウイルス感染による細胞の変形が現れる前に、平均移動距離の比較によって、ウイルス感染の有無を確認できる可能性があることを示しています。また、感染群では時間の経過とともに細胞の円形度が増していくこと、ホクトウイルス感染群では粒子の平均サイズがキョウトウイルス感染群や対照群と比べて一時的に大きくなり、その後はいずれの感染群も対照群より小さくなっていき、これはホクトウイルス感染アメーバに特有のバンチ形成に一致することなどから、PKA3がウイルス感染による変形の定量的な計測に有効であることが確認できました。

本研究では、大量の位相差顕微鏡画像を自動的に解析するプログラムPKA3の開発により、巨大ウイルスの感染を受けたアカントアメーバのCPEを定量的に解析することに成功しました。この手法を利用することで、宿主の動態という観点から、ウイルスと宿主の相互作用を検討できるようになる可能性があります。また、宿主の動態変化をみることにより、未だ発見されていない新たな巨大ウイルスが発見できる可能性もあります。

今回の成果について武村教授は「本研究で開発された手法は、アメーバに限らず、がん細胞や免疫系、ニューロンなど、位相差顕微鏡で観察できるすべての細胞に応用が可能であり、細胞生物学、医学、生物工学を始めさまざまな分野への応用が期待できます」として、今後の発展への期待を示しています。

なお、本研究は、東京理科大学学長特別研究推進費(強化枠)により実施されたものです。

【論文情報1】

雑誌名 Frontiers in Microbiology 2020年1月17日 オンライン掲載
論文タイトル Kinetic analysis of the motility of giant virus-infected amoebae using phase-contrast microscopic images
著者 Sho Fukaya, Keita Aoki, Mio Kobayashi and Masaharu Takemura
DOI 10.3389/fmicb.2019.03014

【論文情報2】

雑誌名 Viruses 2019年12月5日 オンライン掲載
論文タイトル Co-Isolation and Characterization of Two Pandoraviruses and a Mimivirus from a Riverbank in Japan
著者 Motohiro Akashi and Masaharu Takemura
DOI 10.3390/v11121123

【記者発表会の開催】

この度、本プレスリリースにつきまして、下記のとおり記者発表会を開催いたしますので、ご取材賜りますようお願い申し上げます。
巨大ウイルスに感染したアメーバ細胞の動態を定量的に解析する画像解析プログラムを開発~位相差顕微鏡で観察可能なさまざまな細胞や、多分野への応用に期待~

武村研究室のページ
大学公式ページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?4d94
研究室のページ:https://www.facebook.com/giantvirusbiology/

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