2019.12.20 Friday

原因不明の難病「IgG4関連疾患」における臓器障害のメカニズムを解明
~IgG4抗体と細胞傷害性T細胞の相乗効果で炎症が増悪~

研究の要旨とポイント

  • 全身の様々な臓器に炎症による障害が起きる原因不明の難病「IgG4関連疾患」で、臓器に強い炎症反応が生じるメカニズムを明らかにしました。
  • IgG4関連疾患は、日本では8,000~20,000人の患者がいるとされていますが、発症や増悪に関するメカニズムには未だ不明な点が多く、厚生労働省により難病に指定されています。
  • 今回の研究により、臓器の細胞に炎症を引き起こしているのは、病原体を攻撃して排除する免疫細胞の一つである「細胞傷害性T細胞」であること、IgG4抗体が血液中に存在するとき、細胞傷害性T細胞の働きが活性化され、炎症が増悪することがわかりました。
  • 炎症が発生、増悪するメカニズムが明らかになったことにより、IgG4関連疾患に対する新たな治療戦略を提示することができました。

東京理科大学生命医科学研究所分子病態学研究部門の久保允人教授らの研究グループ*1は、肝臓、すい臓、腎臓などの臓器や、血管、涙腺、唾液腺など、全身の様々な組織に腫れや炎症を生じる原因不明の難病「IgG4関連疾患」について、臓器に強い炎症が生じるメカニズムを明らかにしました。

IgG4は、細菌やウイルスなどの病原体に対して身体が抵抗するためのシステム「免疫」に関わるタンパク質です。身体に侵入した病原体や、病原体に既に侵された細胞などと結合し、病原体を無力化したり、白血球などの免疫細胞が病原体を攻撃する際の目印として働いたりする物質をまとめて抗体と呼びますが、IgG4もこの抗体の一つです。

IgG4関連疾患の患者では、臓器に腫れがみられるほか、血中のIgG4の濃度が正常値と比べて高くなっており、IgG4を産生する「IgG4陽性形質細胞」が異常に増えて臓器に浸潤しています。逆に言えば、この三つを除いて患者同士で共通する特徴はあまりありません。炎症が起こる臓器は患者によってまちまちで、起きた臓器や炎症の程度によって自覚症状も異なります。ステロイド剤など免疫を抑える薬で症状が改善する場合が多いことから、自己免疫疾患であると考えられていますが、疾患の発生、進行などのメカニズムには不明な点が多く、治療法の開発のためにもメカニズムの解明が待たれていました。

久保教授らのグループでは、マウスを使った実験で、血中にIgG4抗体が存在すると、免疫系の細胞の一つで異物を破壊する能力を持つ「細胞傷害性T細胞」による、組織傷害の程度が大きくなり、組織の炎症が増悪することを発見しました。血中にIgG4抗体が存在すると、T細胞と同じく免疫系の細胞の一つであり、体内に侵入した異物の特徴を他の細胞に提示する「樹状細胞」の働きが促進され、そのことによって細胞傷害性T細胞が活性化しやすくなっていました。これらのことから、IgG4関連疾患に特徴的な強い炎症はIgG4抗体と細胞傷害性T細胞の相乗効果によるものである可能性が示唆されました。

今回の成果について、久保教授は「IgG4関連疾患の標的治療として、IgG4抗体を減らすこと、細胞傷害性T細胞の機能を落とすことの2つの可能性が考えられるようになりました。今後はこれらの治療応用への可能性を探っていければと思います」と抱負を語っています。

*1 本研究は、東京理科大学 生命医科学研究所 分子病態学研究部門 久保允人教授らの研究チーム(佐々木貴紀、矢島泰生、島岡達朗、小川修平(敬称略))、慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科 竹内勤教授、理化学研究所 生命医科学研究センター 免疫シグナル研究チーム 斉藤隆チームリーダー、北里大学医学部 膠原病・感染内科学 山岡邦宏教授の共同研究として行われました。

原因不明の難病「IgG4関連疾患」における臓器障害のメカニズムを解明 ~IgG4抗体と細胞傷害性T細胞の相乗効果で炎症が増悪~

【研究の背景】

IgG4関連疾患の特徴は、全身の様々な臓器に炎症が起き、それによって痛みや機能の低下などの症状が出ることです。障害が起きる臓器は患者によって異なりますが、脳で起きればホルモンの異状が生じて頭痛や尿崩症などに繋がります。涙腺や唾液腺で起きれば、目の周りや顎に腫れが出ます(ミクリッツ病)。肺や腎臓、すい臓などの臓器に発生すると、臓器の機能が低下するほか、増殖して浸潤した形質細胞が癌と誤診されることもあります。

2001年、すい臓にできる腫瘤や黄疸などを主症状とする自己免疫性膵炎の患者で、血液中のIgG4の濃度が著しく高くなっていることが報告され、それをきっかけに複数の疾患が、IgG4に着目して捉え直されるようになりました。現在では、臓器の炎症に加え、血中のIgG4濃度の上昇、IgG4陽性形質細胞の臓器への浸潤が見られる疾患をひとまとめにして、IgG4関連疾患と呼ぶようになっています。

治療には免疫反応を抑えるステロイド剤が主に使われますが、効果が十分でないケースや、薬をやめると再発するケースも少なくなく、疾患が起きるメカニズムの解明と、それに基づいた新しい治療法の開発が待たれています。

【研究の詳細】

IgG4関連疾患のメカニズムの解明が進まなかった原因の一つは、適切な動物モデルが得られなかったことにあります。動物実験で多く使われるマウスは通常、IgG4を持たないためです。
研究チームは今回の実験で、卵アレルギーの原因物質の一つで、免疫反応のシミュレーションに良く使われるタンパク質でもある卵白アルブミン(OVA)をすい臓の細胞膜で強制的に発現させたマウス(RIP-mOVAマウス)を使用しました。このマウスに対して、OVAを特異的に抗原(免疫によって排除されるべき異物)として認識する細胞傷害性T細胞(OT-I細胞)と、OVAを認識する免疫細胞に異物排除の指示を出すOVA特異的ヘルパーT細胞(OT-II)、OVA特異的ヒトIgG4抗体(遺伝子組み換えにより作成。以下、ヒトIgG4抗体と記す)を組み合わせて使用することで、抗原特異的なIgG4抗体とT細胞がIgG4関連疾患にどのように関わっているかを検証する動物実験モデルを確立することに成功しました。

実験の結果、ヒトIgG4抗体を単独でRIP-mOVAマウスに投与しただけでは、炎症反応は起きませんでした。IgG4関連疾患では、腫れた臓器に細胞傷害性T細胞が集積していることが報告されていますが、OT-Iを単独投与しても激しい炎症反応が起きることはありませんでした。ところが、ヒトIgG4抗体とOT-I細胞を一緒に投与すると、RIP-mOVAマウスのすい臓で激しい炎症が起きることが確認されました。更にこのとき、すい臓に加えリンパ節では、樹状細胞の集積が見られました。その一方で、ヒトIgG4抗体が働かないようにIgG4の受容体(FcγR)をブロックすると、OT-I細胞の活性化が見られなくなりました。これらのことから、ヒトIgG4抗体の存在によって樹状細胞の働きが促進され、OT-I細胞が活性化されやすくなること、この活性化が病変臓器の激しい炎症の原因となっている可能性が高いことが示唆されました。
続いて、OT-I細胞とOT-II細胞をRIP-mOVAマウスに投与したところ、OVAを抗原とする抗OVA抗体が作り出され、IgG4を同時投与した場合と同様、OT-I細胞に起因した激しい炎症反応を引き起こすこともわかりました。

抗体を作り出す免疫細胞は、ヘルパーT細胞の一種で、抗体を作る細胞を補助する役割を持つ「濾胞性ヘルパーT細胞」が放出する比較的低分子のタンパク質(サイトカイン)、インターロイキン4(IL-4)によって制御されています。IL-4の働き、または濾胞性ヘルパーT細胞の機能そのものをブロックすると、抗体を作る細胞の機能に加え、OT-I細胞による炎症反応が抑制されました。このことは、OT-I細胞の働きもまたIL-4によって制御されていること、また、OT-I細胞の働きを抑え、臓器の炎症を緩和する新たな治療薬として、濾胞性ヘルパーT細胞の機能を抑制する薬剤を利用できる可能性があることを意味します。
実験では、濾胞性ヘルパーT細胞の形成を阻害する免疫抑制剤(ヤヌスキナーゼ阻害剤の一種、トファシチニブ。関節リウマチ等の治療薬として使用されている)の投与により、RIP-mOVAマウスのすい臓の炎症を改善させることができました。

【今後の展望】

IgG4関連疾患の病変臓器で激しい炎症反応が起きるメカニズムの一端が解明されたことにより、これまでになかった新しい治療戦略の可能性が複数提示されました。疾患の発生と増悪のメカニズムを検証するために有効な動物実験モデルが確立できたことと合わせて、近い将来、新たな治療法の開発に繋がることが期待されます。

※ 本研究は、科学研究費補助金(19H03491)AMED、AMED-CREST、凸版印刷株式会社(共同研究費)の助成を受けて実施したものです。

【論文情報】

雑誌名 International Immunology 2019年11月12日 オンライン掲載
論文タイトル Synergistic effect of IgG4 antibody and CTLs causes tissue inflammation in IgG4-related disease
著者 Takanori Sasaki1,2,3, Taiki Yajima1, Tatsuro Shimaoka1, Shuhei Ogawa1, Takashi Saito4, Kunihiro Yamaoka5, Tsutomu Takeuchi2, Masato Kubo1,3
1. 東京理科大学 生命医科学研究所 分子病態学研究部門
2. 慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科
3. 理化学研究所 生命医科学研究センター サイトカイン制御研究チーム
4. 理化学研究所 生命医科学研究センター 免疫シグナル研究チーム
5. 北里大学医学部 膠原病・感染内科学
DOI https://doi.org/10.1093/intimm/dxz073

久保教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?24a4

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