2019.12.05 Thursday

建築IoTを利用した安全・安心な知能住宅の実証実験を開始
~葛飾区・公舎等における実証実験を開始します~

研究の要旨

東京理科大学工学部 伊藤拓海教授、長谷川幹雄教授、森健士郎助教、同理学部 中嶋宇史准教授、橋爪洋一郎講師は、モノのインターネット・Internet of Things(IoT)により、建物が何らかの原因で電源や通信手段が利用できない状況下で、様々な診断・見守りのためのモニタリングシステムを開発しています。IoTは、電源・通信手段を持たないモノが、その状態を検知して診断し、ユーザーに通知することを基本としています。2016年7月プレスリリース以降、学際的研究体制(建築、物理、化学、電気、回路、通信、解析など)を組織し、基礎研究と実用化研究を進めてきました。2017年11月より、東京理科大学と東京都葛飾区は、学公連携体制の立ち上げと社会実装試験の実施に向けて協議を重ねてきました。その中で、葛飾区内公舎の中から候補建物を検討・選定し、現地調査により設置箇所、設置方法、計測対象を検討してきました。このたび、センサーと通信機器を実装したデバイスの試作品が完成し、公舎使用時の各種振動を利用して、建物のモニタリングの有効性について実証的な検討を本格的に開始します。今回は、第1弾として、亀有学び交流館(葛飾区お花茶屋三丁目5番6号)を皮切りに、区内の全4棟で随時実証実験を進めていきます。

【研究の背景】

近年、建物の様々な状況や状態をモニタリングし、QOLを高めるため、IoTによるシステムが開発され、実用化されています。建物の安全・安心に関して、我が国の建物は高い耐震基準で設計されていますが、近年の東日本大震災、北海道地震などの地震被害や、台風、集中豪雨による水害を経験し、従来の安全性だけでなく、
1) 被災都市・建物の中で人やモノを守り、
2) 被災都市・建物の早期復旧・復興を実現する。
そのための具体的で実効的なアクションの重要性が、再認識されています。
地震災害を対象とすると、この2つを実現するために、地震直後の被害状況をいち早く把握することが重要となります(図1)。建物の耐震骨組は内外装材で覆われており、損傷状況を目で見て判断することができません。また、膨大な数の震災建物の診断には、多数の専門家が、数週間~半年間、余震の続く被災地で調査・診断にあたります。また、震災で大規模停電が発生し、電気・通信インフラが満足に利用できない状況において、各種モニタリングシステムが稼働しない可能性があります。
そこで、IoTのコンセプト、すなわち省電力センサー、省電力無線通信などを利用することで、震災時の環境に対応できるモニタリングシステムの開発を目指すものです(図2)。すなわち、データサイエンスの基本概念である、データの収集(省電力センサーで振動データを取得)、データの集積・解析(建物の状態のビッグデータと機械学習)、制御・サービス(被災度診断、見守り)を実現します。これにより、無人化・高度化されたモニタリングが期待されます。

【研究成果の概要】

■1. 本システムの概要 1, 2)
本研究のIoTによるモニタリングシステム(図2)の基本は、
a) 建物の動き(振動、熱など)に対して環境発電(エナジーハーベスト)を利用します。なお、システム全体の電気を賄えない場合は、使用電気量を少なくしたうえで、乾電池等でカバーします。さらに、
b) 環境発電の材料は、建築構造物の応答検知に有効であり、センサーとして利用します。
c) 日頃より、建物のデータを取得し、平常時の動きを機械学習します。震災等で建物に変化があった場合や、高齢者・乳幼児が病気・怪我で健康時と異なる動きをしたり、住民以外の侵入があった場合など、その動きを検出することで、診断・見守り・防犯の検知を行います。その後、
d) 通信渋滞を迂回して、省電力無線通信により結果を通知します。なお、機械学習を用い、省電力で安定した通信技術3)を利用します。

■2. 今回の社会実装実験の実施体制と対象建物
2017年11月より東京理科大学のIoT研究チームと葛飾区関係各課が協議を重ね、このたび、学公連携し、東京都葛飾区内の公舎等を対象建物として、IoTセンサーを設置してモニタリングを本格的に開始することになりました。本IoTシステムを建物に実装し、その適用性や有効性を検証するとともに、実建物の環境下での様々な課題を見出すことを目的としています。葛飾区内4つの建物を候補とし、設置箇所、設置方法、計測対象を検討し、第1弾として亀有学び交流館(葛飾区お花茶屋三丁目5番6号)(図3)に本IoTシステムを設置し(図4, 5)、成立性検証実験を開始することになりました。今後はモニタリングシステムの有効性や適用性を検証し、デバイス等を改善し、その他の建物(高砂地区センター、奥戸地区センター、南綾瀬地区センター)に展開していきます。

■3. 今回の社会実装実験の概要
震災建物の被災度診断では、①建物の傾き(残留変形角)、②構造部材の損傷状況(塑性化、座屈、ひび割れ)、③建物周辺状況の損傷状況、④内外装材・設備の状況、に基づき、被災度レベルが決定されます(図6)。今回試作したIoTセンサーは、①の建物の傾きと、②構造部材の状況をモニタリングします。実証実験の内容は以下の通りです。
A) 建物の振動検知のためのセンサー:
1) 圧電を利用したセンサーを製作し、建物の生活・交通や風・地震による柱梁部の振動を検知し、得られた振動データを機械学習で解析し、建物の状態を評価します(図4)。さらに、環境発電としての圧電センサーによる発電量を検討します。
2) 加速度センサーを利用し、建物の層間変形を検知します(図5)。これは、現行の震災建物の被災度区分判定の基準が、震災建物の残留変形角に基づいていることから、被災度診断のセンサーの開発を目指すものです。
B) 振動データの解析:
Aで得られた振動データは、機械学習による解析を行い、建物の情報を判定します。ここで、振動データの解析は、1) 小型回路に解析プログラムを組み込み、対象建物の中で解析する方法と、2) 取得データを大学等のサーバーへ送信してから解析する方法があります。今回は、2)の方法で解析を行います。

【今後の展望】

 これまで、東京理科大学の研究グループは、学際的研究組織により、基礎研究から実地研究を進め、震災建物のIoTモニタリングのための機器・センサーの要素技術を開発してきました。今回は、具体的に建物の状況に合わせて、センサーと通信機器を実装し、具体的なIoTセンサーを提示します。また、建物の実環境下のデータを取得・解析・通信することで、課題を抽出することができます。さらに、建物のデータを継続的に取得することで、振動データのビッグデータの実態を明らかにすることができます。

【参考文献】

1) 例えば,伊藤拓海,山本貴博,長谷川幹雄:IoTを活用した安全・安心な住環境の学際研究,科学フォーラム,2016年10月号
2) Takumi Ito, Mikio Hasegawa and Takashi Nakajima: Internet of Things for Buildings that Make Life Safe and Secure, IEEE IoT, News letter, 2017.1.10
3) https://www.tus.ac.jp/mediarelations/archive/20191108002.html


図1 震災後から調査・診断~復旧計画~復旧工事のプロセス
 

図2 震災建物のIoTモニタリングのシステム概要図
 

図3 モニタリング対象の建物(第1弾:亀有学び交流館)
 
図4 部材の振動検知用のセンサー
 

図5 建物の傾きセンサーと通信デバイスなど
 

図6 被災度診断の調査項目と被災度レベル
 

伊藤(拓)研究室のページ
研究室のページ:https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/tito-lab/
伊藤教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?5d63
森助教のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?7074

長谷川研究室のページ
研究室のページ:http://haselab.ee.kagu.tus.ac.jp/
長谷川教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?26b3

岡村・中嶋研究室のページ
研究室のページ:https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/sokamura/
中嶋准教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?40ab

橋爪講師のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?4e63

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