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2019.11.26 Tuesday

世界初:固体の第三の状態「準結晶」によく似た構造の結晶について、極低温で反強磁性相の存在を確認
~未だ謎に満ちた準結晶の性質の解明に一歩~

東京理科大学

研究の要旨とポイント

  • 金・ガリウム・ユーロピウムの3種の金属からなる金属合金の1/1近似結晶および2/1近似結晶について、反強磁性転移の観測に成功しました
  • 2/1近似結晶での反強磁性転移の確認は、世界でも報告例がありません。
  • 近似結晶の性質の解明は、結晶と非晶質に次ぐ、固体の第三の状態として知られながら、その特性が十分明らかにされていない「準結晶」の性質の理解に繋がります。

東京理科大学基礎工学部材料工学科の田村隆治教授らの研究グループは、金・ガリウム・ユーロピウム(Au-Ga-Eu)の合金について、結晶とアモルファス(非晶質)に次ぐ第三の固体状態として知られる「準結晶」に酷似した原子的構造を持つ「1/1および2/1近似結晶」を発見し、温度を下げることで「反強磁性転移」を観測することに成功しました。特に2/1近似結晶での反強磁性転移の確認は、世界でも報告例がありません。

2/1近似結晶の原子的構造には、準結晶の構築に必要とされる全ての構成要素が含まれており、今後は反強磁性を示す準結晶の作製や、結晶でも非晶質でもない準結晶の特異な性質の理解にも繋がると期待されています。

【研究の背景】

私たちの身の回りで見られる固体物質は、結晶か、結晶ではないか、二つの状態のうちいずれかを取っています。

結晶とは、原子や分子、またはイオンが規則的かつ周期的に配列した状態です。例えば塩の結晶なら、立方体の各頂点にナトリウムイオンと塩素イオンがそれぞれ隣り合うように配置され、その構造が縦、横、高さの3方向に無数に繰り返されています。それに対して非晶質とは、原子などの配列に規則性も周期性も何もない状態です。

準結晶は結晶と同様に、原子や分子、イオンが規則的に配列されていますが、その配列には周期性が全くありません。このことから、準結晶は結晶でも非晶質でもない、固体の第三の状態であると考えられています。

<準結晶の発見>

準結晶は1984年、イスラエルの金属学者ダン・シェヒトマン博士(Dan Shechtman、準結晶の発見により2011年にノーベル化学賞を受賞)によって初めて確認されました。アルミニウムとマンガンからなる合金を急速に冷却してできた結晶様の構造の電子回折像に、規則的に並んだ無数の正五角形状の構造が写っていることに気づいたのです。さまざまな角度から観察すると、この構造は20枚の正三角形からなる正二十面体と同じ回転対称性を持っていること、規則的に並んではいても、結晶であれば存在するべき並び方の周期性がいっさい見当たらないことも分かりました。
2次元の結晶を例にとると、1種類の合同な正多角形で平面を隙間なく埋め尽くすことができるのは、正三角形、正方形、正六角形の3つしかありません。正五角形で埋め尽くされた結晶は、そもそもあり得ないのです。
それまでの常識からは考えにくいこの構造は、はじめは急冷によって作られたために温度の上昇に対して不安定であり、十分な観察が難しいものでもありました。

2000年、国立研究開発法人物質・材料研究機構(当時)の蔡安邦(A. P. Tsai)博士らが、カドミウムとイッテルビウム(Cd-Yb)の二元系合金について、急冷を必要としない安定な準結晶構造を作製することに成功しました。
蔡博士の準結晶はシェヒトマン博士が発見したものと比べて、温度が上昇しても安定で、(1)4つの正三角形からなる正四面体(2)12の正五角形からなる正十二面体(3)正二十面体(4)正十二面体の各頂点を切り落とした切頭十二面体(5)30の合同な菱型からなる菱型三十面体(RTH、rhombic triacontahedron)の5つの構造が(1)を内側に(5)まで重なった五層の殻構造を持ち、(3)の各頂点にはYb、他の頂点にはCdがそれぞれ配置されていました。この多重殻構造を、発見者の蔡博士にちなみ、Tsai型クラスターと呼びます。
このCd-Yb準結晶の原子的構造は2007年に北海道大学の高倉洋礼博士らによって解かれ、準結晶は結晶でも非晶質でもない、固体の第三の状態として認められるようになっています。

<1/1、2/1近似結晶>

準結晶構造をつくる金属合金の組成をほんの僅かに変えると、準結晶によく似た局所構造を持ちながら、結晶のような周期性を併せ持つ結晶構造(周期性を持つので、結晶の定義に当てはまります)を作ることができ、これを近似結晶と呼びます。

Cd-Yb準結晶の組成はCdが5.7に対してYbが1ですが、Cdの比率を僅かに増やし、Cd:Yb=6:1としたとき、Tsai型クラスターが立方体の各頂点と中央に配置した体心立方構造になります。この構造が、1/1近似結晶です。
更に、Cd:Yb=76:13のとき、Tsai型クラスターと2つのYb原子を含んだ鋭角菱面体からなる単純立方構造になります。この構造を、2/1近似結晶と呼びます。
2/1近似結晶は、Tsai型クラスターのみで構成される1/1近似結晶とは違い、準結晶を構成する全ての構造的な要素を含んでいるため、2/1近似結晶の性質を理解することは、準結晶の性質の理解に寄与すると考えられています。

<磁性と反強磁性転移>

磁性とは、物質が外的な磁場に対してどのような振る舞いをするのかを示す性質のことを言います。みずからは磁化を持たず、外部から磁場を与えられたときにだけその磁場にひきつけられるように磁化する性質を常磁性といい、逆にその磁場に反発するように磁化する性質を反磁性と呼びます。

常磁性を示す物質では、物質内の磁気双極子(N極とS極を持つ、ごく微細な仮想の磁石)が特に決まった指向性や相互作用を持たず、ばらばらの方向を向いて存在しています。外部から磁場を与えられると、物質内の磁気双極子がその磁場と同じ方向を向くようになり、一時的に磁化されますが、外部の磁場が離れると磁気双極子の向きは熱によって乱されて、再びばらばらになってしまいます。

常磁性を示す物質を徐々に冷やして、双極子の向きに対する熱の擾乱を減らしてやると、一部の物質ではある温度(キュリー温度)以下で隣り合う双極子が全て同じ向きに整列し、物質自体が磁化を持ち始めることがあります。また、一部の物質では逆に、ある温度(ネール温度)以下で、隣り合う双極子が互い違いの向きに整列し、物質全体として磁化が完全になくなります。前者の性質を強磁性、後者を反強磁性といいます。

【研究の詳細】

研究チームが今回使用したのは、Au-Ga-Euの3種の金属からなる合金です。最近合成に成功した、Au66Ga20Eu14の1/1近似結晶と、Au65Ga20.5Eu14.5の2/1近似結晶について、ネール温度をそれぞれ7.0K(-266.15℃)、8.5K(-264.65℃)とする反強磁性転移を観測しました。

また、特に準結晶を構成する構造的要素を全て含むと考えられる2/1近似結晶の磁性を詳しく理解するため、1/1近似結晶と2/1近似結晶の両方について、超伝導量子干渉計(SQUID)を使用して近似結晶の磁気特性が変わる条件を調べました。興味深いのは、2つの異なる近似結晶の磁気特性を、「e/a比」という1つの共通のパラメータが支配していることが示唆されたことです。
e/a比とは、原子の数に対する電子の数の比率のことです。研究チームでは2018年に、金とアルミニウム、ガドリニウム(Au-Al-Gd)の金属合金について、1/1近似結晶のe/a比と温度、磁気特性の関係を既に観察していました。
Au-Al-Gd系の1/1結晶では、温度が2.2K(-270.95℃)のとき、e/a比を2から1に向かって少しずつ減らしていくと、磁気特性はスピングラスから強磁性、やがて反強磁性へと次第に変化していきます。反強磁性が見られるのは、e/a比が1.54から1.56のごく狭い間だけで、e/a比が小さくなるにつれて、反強磁性を示し始める温度は低くなっていきます。
今回のAu-Ga-Euの2種類の近似結晶のe/a比はどちらも、1.54から1.56の範囲に収まるものでした。2/1近似結晶で反強磁性が確認されたのは今回が初めてですが、反強磁性を示すe/a比は、1/1結晶と同じ範囲に収まっていたことになります。

このことについて田村教授は「1つの合金系で1/1近似結晶と2/1近似結晶の反強磁性転移が同時に観測されたのは初めてのことです。準結晶により近い構造を持つ2/1近似結晶で、反強磁性転移がみられたことは、準結晶の性質を理解するうえで大きな意味があります」と話しています。

※ この研究は、文部科学省科学研究助成事業新学術領域研究「ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学(領域代表者:田村隆治)」(JP19H05818、2019~2023)の助成を受けて実施したものです。

【論文情報】

雑誌名 Physical Review B: Rapid Communications 2019年11月25日 オンライン掲載
論文タイトル Antiferromagnetic order survives in the higher-order quasicrystal approximant
著者 S. Yoshida, S. Suzuki, T. Yamada, T. Fujii, A. Ishikawa and R. Tamura
DOI https://doi.org/10.1103/PhysRevB.100.180409

田村研究室のページ
大学公式ページ: https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?2c9d

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