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2019.09.27 Friday

薬剤耐性菌に対する効果も! 新規抗菌性物質群の創出に成功
-新規のマクロライド系抗菌薬として今後の創薬展開に期待-

研究の要旨とポイント

  • 新規マクロライド系抗菌薬シーズとして期待されるユーシェアリライドの迅速かつ高収率な合成法を開発しました。
  • この合成法で得た人工のユーシェアリライド類縁体は、抗真菌活性に加え、重要な薬剤耐性菌に対する高い抗細菌活性を示すものもありました。
  • 真菌感染症の増加や薬剤耐性菌の拡大が懸念されるなか、今後の創薬展開が期待されます。

東京理科大学理学部第一部応用化学科の椎名勇教授、殿井貴之講師は、千葉大学真菌医学研究センターの亀井克彦教授、石和田稔彦准教授との共同研究により、新規抗菌薬として期待のかかる有機化合物「ユーシェアリライド(eushearilide)」の迅速かつ高収率な合成法を開発しました。

真菌(真核菌類)は、空気中や土の中などに多く存在する身近な菌類です。健康な人にはとくに害のない種や、発酵に使われるなど有用な種も多い一方、高齢化の進行や生活習慣病の増加に伴い、真菌による感染症も増加する傾向にあります。免疫抑制剤の使用が一般化したことにより、患者の肺や肝臓などで真菌が増える、深在性真菌症も大きな問題となっています。
真菌は細菌とは異なり、ヒトと同じように細胞に核を持つ真核生物です。このことが、ヒトの細胞を傷つけず真菌だけに作用する薬剤の開発を難しくしています。使用可能な抗真菌薬の数は限られているため、優れた抗真菌作用を有する新規の抗真菌薬の開発が望まれてきました。

ユーシェアリライドは2006年にアオカビの一種(Eupenicillium shearii)より単離されたマクロライドで、種々の病原性真菌に対する抗真菌活性がすでに報告されています。医薬品への応用が期待されていますが、天然から抽出できる量は極めて少ないため、研究は十分に進んでいません。
椎名教授らは、これまでにユーシェアリライドの正確な立体構造の解明と人工合成に成功しており、今回の研究では、より収率の高い天然型ユーシェアリライドの全合成技術を確立しました。さらに、ここで開発した技術を用いてユーシェアリライド構造類縁体を網羅的に合成し、それら類縁体の抗菌活性を評価した結果、ユーシェアリライド構造類縁体は抗真菌活性のみならず抗細菌活性も示すことを世界に先駆けて明らかにしました。対象となる細菌類にはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やA群連鎖球菌(GAS)などの重要な薬剤耐性菌が含まれています。

ユーシェアリライドの臨床応用が実現すれば、世界中で広がりを見せる薬剤耐性菌の院内感染の抑制に貢献すると期待されます。

【研究の背景】

ユーシェアリライドは24の原子が環状に結合する大環状ラクトンで、化合物のキラリティー(左右の掌のように、鏡に映した姿が元の化合物とは異なるという性質)を生じさせる元となる、不斉中心と呼ばれる原子を2つ持つことはわかっていましたが、その正確な立体構造はわかっておらず、薬理作用も十分には解明されていませんでした。

椎名教授らは2016年に天然型ユーシェアリライドの全合成手法を確立し、核磁気共鳴装置(NMR)を用いてユーシェアリライドの正確な立体構造を解明していました。今回の研究では、この手法をベースとして、より総収率の高い天然型ユーシェアリライドの全合成を達成するとともに、新規に確立した手法によって、天然型も含めた8種のユーシェアリライド構造類縁体に加えて、23位デメチル体を網羅的に合成することに成功しました。これらのユーシェアリライド構造類縁体の抗真菌活性と抗細菌活性を評価して、新規抗菌薬シーズとしての可能性を探索しました。

【研究の詳細】

天然型ユーシェアリライドの高効率な合成の達成には、巨大なラクトン骨格をいかに効率的に構築するかがカギとなりました。そこで研究グループは、Julia-Kocienskiオレフィン化と呼ばれる反応を利用して2つの合成中間体を連結させ、環化前駆体へと誘導後、MNBA法(2002年に椎名教授らが確立し、発展させてきた方法)を用いたマクロラクトン化を行う合成手段をとることで、収率の良い骨格構築法の開発に成功しました。

このように、複数の出発材料から複数の中間体を合成し、それらを結合させて目的物質を合成する方法を、一工程ずつ構造を組み上げていく直線的合成法に対して、収束的合成法と呼びます。後者は前者よりも短い経路で複雑な分子を合成することができるため、複雑な構造を持つ比較的大きな分子の合成に有利です。収束的合成法により、合計ステップ数を16にまで削減すると同時に、総収率13.4%という高収率で天然型ユーシェアリライドの全合成を達成しました。

同グループはこの新たな合成経路を活用して、天然型ユーシェアリライド(化合物名称D)のみならず、3位と23位に存在する2つの不斉中心ならびに16位アルケン部位の幾何異性の異なる全8種のユーシェアリライド構造類縁体、および23位デメチル体を網羅的に合成しました。合成された化合物の抗真菌活性および抗細菌活性を千葉大学真菌医学研究センターが評価した結果、既報の通り天然型ユーシェアリライドは高い抗真菌活性を示しました。
また、人工合成した化合物の中から、天然型ユーシェアリライドよりも高い抗真菌活性をもつものが見出されました。さらに特筆すべき結果として、真菌類のみならず、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やA群連鎖球菌(GAS)などの重要な細菌類に対しても抗細菌活性をもつ非天然型ユーシェアリライド類縁体が発見されました。これは、本合成法を用いなければ得ることのできない類縁体のいくつかが、新規抗菌物質として作用することを示しています。

今回の成果について椎名教授は、「人工合成されたユーシェアリライド類縁体は、抗真菌活性だけでなく、抗細菌活性も有しており、真菌感染症の治療だけでなく、MRSAなどによる院内感染の抑制にも活用できる可能性があります。新規マクロライド系抗菌薬のシーズとして、非常に有望です。」と説明しています。

【論文情報】

雑誌名 Molecules 2019年9月22日 オンライン掲載
論文タイトル





Total Synthesis and Antimicrobial Evaluation of 23-Demethyleushearilide and Extensive Antimicrobial Evaluation of All Synthetic Stereoisomers of (16Z,20E)-Eushearilide and (16E,20E)-Eushearilide
著者 Takayuki Tonoi, Takehiko Inohana, Teruyuki Sato, Yuuki Noda, Miyuki Ikeda, Miku Akutsu, Takatsugu Murata, Yutaro Maekawa, Anna Tanaka, Rio Seki, Misako Ohkusu, Katsuhiko Kamei, Naruhiko Ishiwada and Isamu Shiina
DOI https://doi.org/10.3390/molecules24193437
薬剤耐性菌に対する効果も! 新規抗菌性物質群の創出に成功
~新規のマクロライド系抗菌薬として今後の創薬展開に期待~   【図版】※提供:椎名勇 1.ユーシェアリライドの分子構造 2.天然型ユーシェアリライドの全合成の概略 3.ユーシェアリライド構造類縁体の抗真菌活性。抗菌活性が高いほど最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration: MIC)は小さい値を示す。

椎名研究室のページ
研究室のページ: https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/shiina/indexj.html
椎名教授のページ: https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?19ed
殿井講師のページ: https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?64f2

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