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2019.09.18 Wednesday

体にまとえるしなやかな電子機器をめざして
~柔らかく、安定性、耐紫外線性にすぐれた新たな有機半導体素材の開発に成功~

研究の要旨とポイント

  • 新たな有機半導体として利用出来る可能性のある、電子アクセプター骨格を開発しました。
  • 半導体として利用できる有機物質は未だ種類が少なく、空気中で安定なものや有機溶剤に良く溶けるものは特に少ないため、開発が待たれていました。
  • 有機半導体はシリコンなどの無機半導体と比べて構造が柔らかく、製法も簡便なため、より低コストで、体や衣類によりフィットしたウェアラブルデバイスなどへの応用が期待されます。

東京理科大学理学部第一部化学科の田所誠教授、香川大学の磯田恭佑講師(元・東京理科大学理学部第一部化学科・助教)、千葉工業大学の菅谷知明准教授(元・東京理科大学理学部第一部博士研究員)らの研究グループは、このほど、電子を取り込む性質を持ち、空気中で安定な新たな電子アクセプター骨格(TANC誘導体、C6OAHCQ)の開発に成功しました。この新規骨格は、炭素を基本原料とした有機半導体の素材として利用できる可能性があります。

家電製品から携帯用電子機器、インターネットなどの社会インフラに至るまで、現代の生活は半導体を抜きにして語ることはできません。半導体とは金属などの電気を通す物質(導体)と、ゴムなどの電気を通さない物質(絶縁体)の電気的性質を持つ物質で、温度を上げるなど一定の条件下でのみ通電させることができるため、電流の増幅や、電流を流す方向の調整、電気信号のON・OFFの切り替えなどに使われています。

代表的な半導体は、ケイ素(シリコン)やゲルマニウムなどの無機元素を原料としていますが、これらの無機半導体には、生産のために大規模な工場設備が必要なこと、可塑性に限界があり、例えばウェアラブルデバイスなどのより柔軟な構造を必要とする製品への応用が難しいことなどの課題がありました。一方、有機半導体は生産がより簡便で可塑性にも富む一方で、酸素や紫外線に晒されると不安定になること、また一部の素材では、有機溶媒に溶けづらいため薄膜をつくりにくく、使える場面が限られることなどの欠点がありました。

今回の新素材は、柔らかさなどこれまでの有機素材の利点は維持しながら、空気中でも安定で、有機溶剤にも良く溶けるものです。既存の印刷技術を使って溶液を平面に塗布することで、衣類や体によりフィットしたウェアラブルデバイスなど、より自由な形状と新しい機能性を持つ半導体デバイスの開発に繋がると期待されています。

【研究の背景】

日本で初めて携帯電話が登場したのは1987年4月(NTT調べ、以下同)。体積はおよそ500㏄、重量は900グラムで、携帯性に優れているとはとても言い難いものでした。それから約30年を経て、スマートフォンを含む携帯用電子機器は小型化、高機能化され、現在では腕時計型をはじめとした「身に着けられる」デバイスも多数登場しています。

電子機器の小型化・高機能化に大きく寄与したのが、機器の心臓部と言える電子素子の小型化です。電子素子は真空管に始まり、半導体を使用したダイオードなどに置き換えられたことで小型化が進みました。電子機器の演算は、0と1の2つの数字のみを使った二進法で行われています。0と1とは電流のオフとオンを使ってそれぞれ表されており、半導体はこのオフ、オンを高速で切り替えるために使われます。

一般的な半導体に使われるケイ素やゲルマニウムは、そのままでは電気伝導性が非常に低く、電圧を加えても電気はほどんど流れません。しかし、電子を余分に持った不純物を少量加えることで、余った電子がそれまで安定であった結晶構造の中を自由に動き回るようになり、導体のような性質に変化します。また、電子が不足した状態(電子が入るべき孔が空いた状態)の不純物を加えた場合にも、結晶中を孔が移動することにより、同様の性質変化が起こります。電子の多い不純物を加えて作る半導体を「n型半導体」、電子の不足した不純物を加えるものを「p型半導体」といいます。

電流をコントロールするには、n型とp型の半導体を接合させたpn接合をつくり、電圧を加えます。電子はマイナス、孔はプラスの電荷を持つため、プラス極にp、マイナス極にnをセットして電圧を加えると、電子はpへ、孔はnへと引き寄せられます。接合部を介して電子がn側からp側へpの孔を埋めるように移動することで、p側からn側へ電流が流れます。一方、プラス極にn、マイナス極にpをセットして電圧を加えると、電子と孔がそれぞれ電極側に引き寄せられて接合部から離れるため、電流は流れなくなります。pからnへの一方向にのみ電流を流す性質を整流作用といい、ダイオードの基本原理として利用されています。

【研究の詳細】

分子構造中でベンゼン環が連結したペンタセンのような芳香族ポリアセン化合物は、炭素と水素のみからなり、電子を押し出すようなp型半導体としての機能をもちます。しかし、ポリアセン化合物の骨格に炭素と水素以外の元素(ヘテロ元素)を組み込むことで、様々な機能を持った新しい化合物(ヘテロアセン化合物)を作ることができます。ヘテロアセン化合物は元のポリアセン化合物とは異なる物性的・電気的特性を持ち、ベンゼン環の炭素原子の一部を窒素原子(元素記号N)に変化させたN-ヘテロアセンは、化学結合中に電子を取り込んで、n型の有機半導体として機能します。

田所教授らの研究グループは、6つの反応プロセスを経て、電子受容性をもつN-ヘテロアセン誘導体の1つ、空気中でも安定なN-ヘテロヘプタセンキノン(C6OAHCQ)を赤色の単結晶として得ました。この物質は、2つのテトラアザナフタセン(TANC)骨格で1個のベンゾキノン骨格を挟み込んだ構造を持ち、電子が欠乏した状態のN原子8個を含んでいます。このN原子が電子の受容体としてはたらき、また、2つのカルボニル基を持つため、有機溶剤に良く溶けます。

C6OAHCQの特性を更に調査するため、有機溶媒に溶解させた状態でUV-可視光吸収スペクトルや、電流・電圧曲線測定、静電ポテンシャルの理論計算を行いました。その結果を類似物質のものと比較したところ、C6OAHCQは同時に最大4つの電子を受容することができ、同様に有機n型半導体として知られるC60(フラーレン)の最大3つの電子と比べ、電子受容力に優れていました。また、吸収スペクトルの結果からは、C6OAHCQが紫外線に晒されても安定であることが確認されました。

さらに、ジクロロメタン溶媒に溶かして電流を流したところ、溶液の色が茶色から緑色に変化し、この物質が荷電によって可逆的に色調を変える、エレクトロクロミズムと呼ばれる性質を持っていることもわかりました。エレクトロクロミズムは、通電によって光の透過性を変え、透明ガラスを曇りガラスに切り替える「スマートウィンドウ」や、通電した部分のみに着色させて文字や絵を表示する「電子ペーパー」などに有用な性質で、C6OAHCQは半導体だけでなく、エレクトロクロミック素材としても利用できる可能性があります。

今回の研究の意義について、田所教授は「電子を受け取る性質を持つ安定な有機分子の骨格は、フラーレンやTANCなど非常に限られた物質しか知られていません。新たな有機アクセプターの分子骨格の発見は、新しい機能性を持つ分子デバイスの開発にも繋がるため、非常に重要です。このような有機半導体デバイスは、硬い無機半導体デバイスと違って非常に柔らかく、衣類や体にもフィットした接着可能なデバイスを作ることにも役立ちます」と話しています。

【論文情報】

雑誌名 Organic & Biomolecular Chemistry 2019年9月14日号 Issue34に掲載
論文タイトル Synthesis and electrochromic behavior of a multi-electron redox-active N-heteroheptacenequinone
著者 Kyosuke Isoda, Mitsuru Matsuzaka, Tomoaki Sugaya, Takeshi Yasuda and Makoto Tadokoro
DOI https://doi.org/10.1039/C9OB01323G

田所研究室
研究室のページ:https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/tadokoro/
田所教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?4870

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