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2019.07.02 Tuesday

ナノテクノロジーを支える基幹材料、金属クラスターのダイナミクスを捉えた!
~金属クラスターの溶液中での挙動を高精細に把握することに成功~

研究の要旨とポイント

  • ナノ物質である金属クラスターの溶液中での挙動については、今まで未解明なことが多くありましたが、2つの測定手法を組み合わせ、溶液中での金属クラスターの挙動を明らかにしました。
  • 金属クラスターの一種、チオラート保護金銀合金クラスターは、その合成方法によって、溶液中での時間経過による安定性や構造が異なることが判明しました。
  • 数個~数百個の金属原子からなる、微細なナノ物質である金属クラスターの安定性、動的挙動、構造等を知るための分析法を確立できたことで、今後のナノ物質の性質の解明や、精密な合成など、将来のナノテクノロジーの土台を支える技術につながる可能性があります。

ナノテクノロジーの応用範囲は、創薬、分子センサー、燃料電池、など幅広く、とくに、医療、環境、エネルギーの分野で、研究の進展が期待されています。様々なモノを小さくすることで、新たな機能を得たり、高機能化したり、資源やエネルギーを節約する、といった効果ももたらします。環境に優しく、高機能で、コンパクトなモノを作り出す、まさに、新しい時代をひらく技術です。触媒などに用いる希少金属の使用量を減らす、電子配線をインクジェット印刷する、抗菌作用の銀ナノ粒子を医療用品に用いる、退色しない金ナノ粒子の光デバイスで利用する、ナノ物質の凝集で色が変化する性質をセンサーに利用する、磁性をもったナノ物質に機能性の高分子を付けて特定の物質を回収する、などなど、アイデア次第で応用範囲は無限に広がります。

こうした研究を進めるにあたって、ナノテクノロジーの基幹材料となるナノ物質が、溶液中でどのような状態であるか、その安定性、化学組成、構造、及びそれらの時間変化、などを知ることが非常に重要です。ところがこれまで、合成された物質が溶液中でどのような挙動をとっているのか、未解明な部分が多くありました。
東京理科大学理学部第一部応用化学科の根岸雄一教授らの研究グループは、溶液中の金属クラスターの挙動を解明する手法を開発し、溶液中での挙動の説明に応用しました。本研究により、溶液中の金属クラスターの状態を詳細に知ることの重要性が明らかになりました。今後のナノ物質の精密な合成など、ナノテクノロジーの発展にも大きく寄与することが期待されます。

【研究の背景】

近年金属クラスターの研究は目覚ましく発展し、燃料電池、光触媒、太陽電池など、多方面で注目を集めています。
金属クラスターは、数個から数百個の金属原子が集まった原子の集合体で、大きさは1~2nm程度の粒子です。クラスターを構成する原子の数や組成によって表面積や構造が変化しますが、それによって、通常の金属とは違った、蛍光、光学活性、触媒活性、などの性質を持つことや、特異な機能が現れることが知られています。

現在、最も研究が活発に行われている、金(Au)のチオラート保護クラスター[Aun(SR)m:nとmには特定の数値が入ります]では、25、38、102、144といったAuの数(n)が「魔法数」と呼ばれており、この数値の金を含む化合物は、「魔法数金クラスター」と呼ばれ、特に安定であることが知られています。チオラート(SR)は、金と強固な結合を形成し、元々凝集し易い不安定な金属クラスターを、溶液中で安定するよう保護する役割を持っています。こうしたチオラート保護クラスターについて多くの研究が行われたことで、それまで多種の物質の混合物として取り扱われていた金属クラスターを、化学組成の一定な1つの化合物として取り扱うことが可能となりました。

金属クラスターを合成する方法は、金属を砕く「粉砕法」、気体の化学反応を用いる「乾式法」、溶液中での化学反応を用いる「湿式法」など、いくつも存在しますが、湿式法(溶液中での化学合成)は最も多く行われている方法です。燃料電池や光触媒の高活性化、太陽電池の高効率化など、様々な応用に際しても、金属クラスターを高精密に合成することは、材料の高純度化につながり、機能を高めるためにも必須の技術となります。ところが、これまで、溶液中で合成された金属クラスターの挙動は、まだわかっていない部分が多くありました。

研究グループは、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)とエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)という2つの測定法を一緒に用いることで、溶液中の金属クラスターの挙動を、化学組成と構造、時間変化、といった面から観察することに成功しました。溶液中での分子の挙動を知り、制御を可能にすることは、金属クラスターを応用していく際にもに非常に重要です。

【研究方法の詳細】

根岸雄一教授らの研究グループは今回の研究において、チオラート保護金38原子クラスター([Au38(SC4H9)24]0)の一部の金(Au)を銀(Ag)に交換した金銀38原子合金クラスター([Au38-xAgx (SC4H9)24]0)を研究材料に用いました。元来、チオラート保護金クラスターと、チオラート保護銀クラスターを混合した溶液中では、金原子と銀原子が一部交換されて、金と銀が混在する合金クラスター(Gold-Silver 38-Atom Alloy Cluster:[Au38-xAgx (SC4H9)24]0:化学式中のxには0~3の数字が入ります)が生成して、金と銀の比率が異なる物質が混在することが知られています。いったん合成してしまうと、1つの測定法のデータだけをみると、物質の組成は合成直後から時間が経っても一定なように見えていました。

ところが、ここで疑問が生まれました。
「一旦合成して組成が一定になっているように見えるときは、もう本当に金銀の交換反応は起きていないのだろうか?」
「もしかしたら、ずっと交換反応が起きているのに、ただ測定結果だけ一定に見えているのではないか?」

そこで、研究グループは、金と銀からなる合金クラスター([Au38-xAgx(SC4H9)24]0)の混合物を、2つの異なる合成方法で作成し、その違いを、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)とエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)という2つの測定方法を組み合わせて解明することにしました。

1つ目の合成方法は、チオラート保護金クラスター([Au38(SC4H9)24]0)にAg(I)-SC4H9錯体を決まった方法で添加することで、チオラート保護金銀38原子合金クラスター[Au38-xAgx (SC4H9)24]0を得る、比較的シンプルな方法です(CMCR)。
2つ目の合成方法は、より複雑で数多くのステップを経ますが、こちらの方法(CRMI)を用いても高純度のチオラート保護金銀38原子合金クラスター[Au38-xAgx(SC4H9)24]0を得ることができます。
こうして合成した、2種類のチオラート保護金銀38原子合金クラスター[Au38-xAgx(SC4H9)24]0をRP-HPLCとESI-MSで測定して、化学組成や構造、時間変化のデータを得て比較しました。

シンプルなCMCRで合成したチオラート保護金銀38原子合金クラスター[Au38-xAgx (SC4H9)24]0の組成は、ESI-MSでの測定結果からは、合成直後から時間を経るまで、ずっと変わらないように見えました。ところが、RP-HPLCの結果からは、合成直後から6日目までの間反応が続いており、組成も変化していることが明らかになりました。
一方、CMRIで合成したチオラート保護金銀38原子合金クラスター[Au38-xAgx(SC4H9)24]0の組成は、時間を経ても安定していて、RP-HPLCの結果をみると、CMCRの6日目に近いものでした。

この研究から、2つの結論が導かれました。1つめは、シンプルなCMCRで合成されたクラスターには準安定な成分が含まれるため合成後も安定化するまで反応が続くこと、2つめは、CRMIで合成されたクラスターには元々安定な成分が多いため合成後の反応は抑えられることです。根岸教授はこの研究を踏まえ、「金属クラスターは、触媒やセンサーなどの分野にて応用が期待されています。金属クラスターの触媒能や発光に関して、そのメカニズムを理解するためには、溶液中での挙動の理解が不可欠ですが、明らかになりはじめたのはごく最近であり、その追跡にも限界がありました。今回の研究を通じて私たちは溶液中での挙動を追跡することのできる、高分解能な分析法の確立に成功しました。この成果で、将来の金属クラスターの応用に向けた基礎知見を深めることができたと思います。」と述べています。

本研究で、溶液中の金属クラスターの挙動が明らかにされ、合成方法によってその後の反応にも影響があることがわかったことで、今後は金属クラスター研究の際には、材料の合成方法にも気を配る必要があることがわかりました。これは、この分野の研究手法においても大きな影響をもたらすと考えられます。今回の手法をさまざまな研究に応用することで、これまでよりも高純度で機能性の高いナノテクノロジーの材料を開発できるようになるでしょう。

【論文情報】

雑誌名 Journal of Physical Chemistry C 2019年4月11日 オンライン掲載
論文タイトル Dynamic Behavior of Thiolate-Protected Gold−Silver 38-Atom Alloy Clusters in Solution
著者 Yoshiki Niihori, Sayaka Hashimoto, Yuki Koyama, Sakiat Hossain, Wataru Kurashige and Yuichi Negishi
DOI https://doi.org/10.1021/acs.jpcc.9b02644

根岸研究室のページ
研究室のページ:https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/negishi/
根岸教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?5825

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