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2019.07.01 Monday

「消防隊員の身体負荷が活動安全に与える影響に関する研究」
~過酷な環境で活動する消防隊員の熱中症の発生を抑制する手法の検討~

研究概要

東京理科大学(学長:松本洋一郎)では、理工学研究科の教員を主体とする研究グループが、東京消防庁 消防技術安全所 活動安全課のメンバーと共に、消防隊員の活動安全を確保するための研究に、スポーツ科学の分野における先進的な知見を適用する研究活動を実施しています。こうした研究は、従来、東京消防庁消防技術安全所を始め、他の機関でも実施されてきましたが、我々のグループでは、従来スポーツ科学の分野で取り入れられている2つの手法を、より過酷な環境で活動する消防隊員の活動安全を確保するために応用できないか検討しています。ここで言う「消防隊員の活動安全を確保する」とは、「消防活動中に熱中症を発症するリスクを低減する」ことです。具体的には、東京消防庁消防技術安全所の恒温恒湿室で暑熱環境を再現し、かつ実際の火災現場等で使用する装備を着装した消防隊員が被験者となり実験を行い、「アイススラリーの摂取による体温冷却効果等」及び「プレクーリングの手法による体温冷却効果等」を確認しています。
2018年度より総務省消防庁の消防防災科学技術研究推進制度における研究課題として、採択され委託を受けて研究を推進してきました。そこで、これまでに得られた研究の成果と今後の研究計画について発表する運びとなりました。

研究従事者
◎東京理科大学
市村 志朗 理工学研究科 国際火災科学専攻・教授
大宮 喜文 理工学部 建築学科・教授
仲吉 信人 理工学部 土木工学科・准教授
水野 雅之 理工学研究科国際火災科学専攻・准教授
柳田 信也 理工学研究科国際火災科学専攻・准教授
山本 隆彦 理工学部 電気電子情報工学科・講師
丁 鐘珍  国際火災科学研究科 火災科学専攻・博士後期課程3年生
福井 瀬生 理工学研究科 国際火災科学専攻・修士課程2年生
◎東京消防庁 消防技術安全所 活動安全課
有海 正浩 課長 ・ 清水 鉄也 係長
清水 祐二 主任 ・ 鈴木 峻  副主任

これまでの研究成果の要旨
本研究では、室温30℃・相対湿度70%に制御された室内で、被験者(消防隊員)に踏み台昇降運動(高さ20cmの踏み台で1分間に100ステップの動き)を20分間行ってもらい、30分間の休息を挟んで、再度同じ運動を行ってもらい、その間の直腸温や外耳道温、体表面温、心拍数等のバイタルサインを測定することで、アイススラリーの摂取やプレクーリングの導入による体温冷却の効果などを分析しています。
これらアイススラリーの摂取やプレクーリングの導入は、スポーツ科学の分野でパフォーマンス向上を目的に取り入れられてきた手法ですが、これらの消防隊員の熱中症予防への適用性を検討しています。消防活動は、スポーツ科学の分野で対象とする運動環境よりも熱的環境が厳しく、また着装する装備も特殊な条件と言えます。また、一部のスポーツに共通する部分はありますが、休息を挟んで活動を継続しなければならない点も特徴と言えます。そのため、既往のスポーツ科学研究の成果をブラッシュアップして、消防活動に特化した熱中症予防手法の確立が望まれます。
2017年度には被験者が防火衣を着装して室温40℃または25℃(いずれも相対湿度70%)に制御された室内で運動を行う実験を行いましたが、2018年度には被験者には執務服(作業服)、防火衣、毒刺(毒劇物防護衣に防火衣を重ね着した装備)の3種類の服装で、室温30℃(相対湿度70%)に制御された室内で運動を行う実験を行いました。
プレクーリングと休息の際には、それぞれ100gの冷水またはアイススラリーを5回、3分間隔で被験者に水分摂取してもらいました。熱中症の発症は、深部体温の上昇に関係が深いとされています。図1にバイタルサインの代表的な測定値として、被験者5名の直腸温度の変化の平均値を示します。なお、プレクーリングの水分摂取1回目の時点を基準温度としています。

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1回目の運動後、休息に入ってからも直腸温が上昇を続けますが、アイススラリーを摂取した方が早く低下し始める効果があり、また冷水よりも運動後の直腸温の上昇を抑制する効果もあることが分かります。また、2回目の運動開始時点では冷水摂取とアイススラリー摂取の差が拡がっており、身体冷却の差が明確になっています。消防活動では、長時間に及ぶこともあり、隊長が限られたタイミングで水分補給等の休息を指示するため、休息時の効果的な体温冷却手法が求められます。今回の実験結果から、アイススラリーの摂取はその一つになり得ると考えられます。一方、服装の違いによる直腸温の変化に着目すると、その大小関係は毒刺>防火衣>執務服の順に直腸温が高く、その順に熱中症の発症リスクが高いことを意味します。執務服であれば30分の休息により運動開始前に近い温度まで低下できますが、毒刺では運動終了後の温度上昇が大きいため、30分の休息を経てもまだ運動終了時点の温度にも低下できておらず、消防隊員は火災による熱や化学物質から身を守るために熱的に身体に負荷が大きな装備を身につけていることが分かります。

2019年度の研究計画の要旨
本年度は、恒温恒湿室に設置された放射熱照射装置(写真1)を用いて、日射を伴う環境下、及び火炎や煙層からの放射熱を伴う環境下を想定した実験を行います。図2は、予備実験として昨年度末に実施した結果を示しています。室温30℃、相対湿度60%の運動室で、執務服を着装した被験者が踏み台昇降運動を行った場合の結果で、日射を想定した放射熱を伴う場合は被験者1名のみのデータ、放射熱がない場合は2018年度に実施した同じ被験者のデータと被験者5名の平均値を示しています。2018年度の実験では、服装の条件として最も執務服が熱的な負荷が小さい結果となりましたが、断熱性が低い分、日射などの放射熱の影響を受けやすい服装であることが予想されます。そこで、本年度は、日射を考慮した執務服及び防火衣を着装した条件、日射及び火炎からの放射熱を考慮した防火衣を着装した条件の実験を実施する計画です。

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補足説明
防火衣は、火災現場での消火活動などで執務服の上に着装して活動するための装備で、執務服は消防隊員が事務や各種作業を行いながら火災等の災害に備えて着用します。また、毒劇物防護衣は、NBC災害において有害物質の漏洩や有毒ガスが充満する環境等で、毒劇物から身を守るために着装する防護衣ですが、そうした現場での火災時の消火活動ではさらに防火衣を重ねて着装することになります。この着装状態を消防機関では毒刺と称しており、消防活動において最も身体的負荷のかかる装備になります。近年、夏場の気温上昇や火災時に熱がこもる耐火造建物の増加、また工場など化学物質を扱う施設での火災によって、消防隊員は熱中症の発症リスクが高まっていると考えられるため、日頃の鍛錬のみに頼るのではなく効果的な体温冷却手法の導入が必要であると考えます。また、暑熱環境下で労働に従事する方々への応用についても検討していきます。
来る東京2020オリンピック・パラリンピックでは、史上まれにみる酷暑環境での開催となることが予想されています。選手の体調管理やパフォーマンス向上も大切なことですが、ボランティアや警備スタッフ、警察官や消防職員を含む官公庁の職員など、大会の安全を守る人々の健康管理も大会の成功には重要な事項であると考えられます。本研究の成果は、それらに対して大きく貢献することが期待されます。

用語解説

・アイススラリー:水や水溶液と微細な氷の混合物のこと(右写真)
・プレクーリング:スポーツや労働などの活動前に体温を冷却することで、活動時間の延長等のパフォーマンス向上を目的としたもの。
・NBC災害:核(nuclear)、生物(biological)、化学物質(chemical) の英単語の頭文字から放射性物質、生物剤、化学剤による災害をいう。

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お問い合わせについて
本件に関して、報道各社のご担当者様より、詳細な説明や質問への回答等が求められた場合には、個別に対応させて頂くか、あるいは本学においてプレスブリーフィングを持つ機会を検討したいと思います。また、実験を行っている恒温恒湿室が設置されている東京消防庁消防技術安全所において実験を紹介することも可能です。忌憚なくお問い合わせ頂ければ幸いに存じます。

本研究内容に関するお問合せ先
■東京理科大学大学院 理工学研究科 国際火災科学専攻 水野雅之
〒278-8510 千葉県野田市山崎2641
e-mail:m.mizuno(アットマーク)rs.noda.tus.ac.jp
水野准教授のページ:http://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?3665

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