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2019.06.20 Thursday

複雑ネットワークと機械学習を用いて燃焼振動の予兆検知に成功 ~燃焼工学におけるヘルスモニタリング技術の新展開~

研究の要旨
東京理科大学 工学部 機械工学科 後藤田浩 准教授、東京理科大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 小林翼 学生(当時)、村山聖悟 学生(当時)、八條貴誉 学生らの研究グループは、複雑ネットワークと機械学習を組み合わせた新しい方法論が燃焼振動の予兆検知を可能にすることを世界で初めて示した。
●本研究成果は米国物理学会の学術誌 『Physical Review Applied』に2019年6月14日付けで公開された。

<研究者>
後藤田 浩(東京理科大学 工学部 機械工学科 准教授)
小林 翼(東京理科大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 修士課程2年生 研究当時)
村山 聖悟(東京理科大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 修士課程2年生 研究当時)
八條 貴誉(東京理科大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 修士課程2年生)

<本研究のポイント>
複雑ネットワークの一つである遷移ネットワークと機械学習の一つであるサポートベクトルマシーンを用いることで、燃焼振動の予兆を検知することが可能。

<研究の背景>
燃焼は今日のエネルギー供給技術として重要な役割を担っているが、燃焼振動(1)の発生が燃焼器開発で問題となっている。燃焼器や燃料インジェクタが燃焼振動による強い圧力変動に長時間さらされると、疲労による致命的な破損が懸念される。燃焼振動の予兆検知の技術開発は、発電用ガスタービンエンジン、航空エンジンやロケットエンジンのみならず、さまざまな燃焼器開発において重要となっている。
複雑ネットワークは、インターネット、交通網や人間関係など、現代社会の身近なところで存在しており、応用数学分野のみならず、社会学や通信などの分野でも着目されている。また、近年の情報論的学習理論とその応用技術の著しい進展に伴い、熱工学分野でも機械学習の適用が切望されている。
このような背景により、本研究は、複雑ネットワークと機械学習を組み合わせることで、燃焼振動の新しい予兆検知法を開発した。

<研究内容と成果の概要>
本研究では、複雑ネットワークの一つである遷移ネットワークに着目する。ネットワーク内の頂点間の遷移パターン確率に主成分分析による次元圧縮を適用することで、支配的な遷移パターン確率の主成分平面を得る。主成分平面に対して、k平均法によるクラスタリングと機械学習の一つであるサポートベクトルマシーンを適用する。クラス分類された特徴空間内で、当量比Φ(2)を増加させたときの燃焼状態の推移を図1に示す。ただし、青色を安定な燃焼状態の領域、黄色を安定な燃焼状態から燃焼振動への遷移領域、赤色を燃焼振動の領域とする。Φの増加に伴って、特徴空間内の黒色プロットは、青色から黄色を経て赤色に移動する。このとき、圧力変動p'とOHラジカル自発光強度変動(熱発生率変動)I'OH*に着目すると、時刻t = 21 sec付近で安定な燃焼状態と遷移状態の繰り返しが起きており、この状態が燃焼振動の予兆であると考えられる。本研究では、安定な燃焼状態の領域に遷移領域が50%現れるときを燃焼振動の予兆と定義する。そして、燃焼振動の予兆が起きたときに、燃焼器内の火炎に二次空気を噴射させる。図2で示されるように、燃焼振動の予兆を検知した後(時刻t = 21.3 sec)、二次空気を噴射させると、燃焼状態が特徴空間内の赤色の領域に至らず、燃焼振動の発生が未然に防がれている。複雑ネットワークと機械学習を組み合わせた方法論を用いて、オンラインで燃焼振動の予兆検知と回避に成功したのは本研究が世界で初めてである。

図1
図1(A) 当量比Φを増加させたときの特徴空間内の燃焼状態の変化.
(B) Φを増加させたときの圧力変動p'とOH ラジカル自発光強度変動I'OH*の変化.(a) 時刻t = 10.0 sec,(b) t = 13.4 sec,(c) t = 29.6 sec,(d) t = 42.0 sec.

図2
図2 燃焼振動の予兆検知後に二次空気を噴射したときの特徴空間内の 燃焼状態の変化, 圧力変動p'とOH ラジカル自発光強度変動I'OH*の変化. (a) 時刻t = 10.0 sec,(b) t = 12.6 sec,(c) t = 21.3 sec.
 

<今後の展開>
本研究では、燃焼器開発で問題となる燃焼振動の予兆を検知するために、複雑ネットワークと機械学習を組み合わせた新しい方法を開発した。ネットワーク内の頂点間の遷移パターン確率から構築した主成分平面に、k 平均法とサポートベクトルマシーンを適用することで、燃焼振動の予兆検知が可能であることを世界で初めて示した。今後、さまざまな燃焼器を対象に、本研究成果の有効性を示していく。複雑ネットワークと機械学習は、燃焼工学をはじめとした熱工学分野における新しいヘルスモニタリング技術開発に大きく寄与していくことが期待される。

<謝辞>
本研究は、科研費基盤研究B(課題番号: 19H02085, 研究課題: 燃焼振動の非線形相互作用の基礎的解明: 複雑系数理手法によるアプローチ)と平成29年度スズキ財団科学技術研究助成(研究課題: 機械学習を用いた燃焼不安定の早期検知技術の開発)を受けて実施されたものである。

<発表雑誌>
雑誌名: Physical Review Applied
論文タイトル: Early detection of thermoacoustic combustion instability using a methodology combining complex networks and machine learning
著者: Tsubasa Kobayashi, Shogo Murayama, Takayoshi Hachijo, and Hiroshi Gotoda
DOI 番号: https://doi.org/10.1103/PhysRevApplied.11.064034

<用語説明>
(1) 燃焼振動: 燃焼反応による熱発生率変動と圧力変動の相互干渉によって発生する音圧レベルの高い熱音響自励現象。
(2) 当量比: 燃焼器に供給される燃料と酸素の濃度比を完全燃焼における濃度比で正規化した物理量。 燃料流量を増加させていくと、当量比は増加する。

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