工学部教養 吉田准教授がおすすめする本

紹介者
氏名:吉田裕 准教授
所属:工学部教養
専門:文学研究/カリブ文学および思想

 

本のタイトル等 この本をおすすめする理由
書籍名 :知識人とは何か
著者名 :エドワード・W・サイード、大橋洋一訳
出版社名:平凡社ライブラリー、1998年
サイードなら『オリエンタリズム』が代表作ではあるが、まずはこちらを。イラク戦争の真っ只中の二〇〇三年から〇四年頃のこと。9.11の同時多発テロ事件後、まさかアメリカがアフガニスタンに報復し、イラクにまで攻め込むなんて、と思っていた私はナイーブでした。中東と西洋の「対立」についての先入観を180度変えてくれたサイードの入門書とでもいうべき本書は、すでにホコリにまみれて久しい知識人なる言葉を磨き直し、魅力的な存在として差し出した。言葉を蘇らせることも、学者や作家の大事な仕事。野球選手よりも、サッカー選手よりも、知識人はカッコいい。
書籍名 :方法序説
著者名 :デカルト、谷川多佳子訳
出版社名:岩波文庫、1997年
高校生の時、同級生の父親の葬儀に行った。いつもはひょうきんな彼が、顔をクシャクシャにして泣いていたこと、今でも時々おもいだす。それからしばらくして、何の前振りもなしに差し出したのがこの本だった。もちろん通して読んだ。よくわからなかったものの、考えることの困難をかろうじて理解することができたように思う。それ以後、哲学への憧れが芽生えたが、いまだにちゃんと哲学に取り組めてない後ろめたさがのこる。
書籍名 :カフカ短編集
著者名 :カフカ、池内紀訳
出版社名:岩波文庫、1987年
就職氷河期の九十年代末、文学部という将来の見込みが全くないところに迷い込み、何かになりたいものの何になりたいか分からず、ぼーっと時間ばかり過ぎていく日々。そんな中、翻訳家の先生が教える授業で精読した。ほかにも武田泰淳や深沢七郎、フラナリー・オコナーなどをじっくり読み、引用し、解釈することの楽しさを初めて知った。同じカフカなら『変身』も捨てがたいが、「掟の門」「流刑地にて」をはじめ、この短編集に収められた作品の破壊力は一度味わったら忘れられない。当時、おなじグループで発表した学生は「自分は自己啓発本しか読まない」と豪語していた。文学と縁遠いと思っている人こそ読むべし。意味を求めてはいけない。不思議と気持ちが軽くなり、笑いがこみ上げてくる。
書籍名 :アンダーグラウンド
著者名 :村上春樹
出版社名:講談社文庫、1999年(単行本の初版は1997年)
理科大生全員必読。なぜ理系のエリート集団が説明不可能なほどの悪に邁進してしまうのか。一九九五年三月の地下鉄サリン事件で一変した世界を被害者の視点からインタビューで説き起こしたノンフィクション。続編は加害者へのインタビュー本『約束された場所で』。社会にかかわることはどういうことなのか、考えさせてくれる。森達也監督のドキュメンタリー映画『A』『A2』も併せて必見。
書籍名 :親指Pの修業時代、上・下
著者名 :松浦理恵子
出版社名:河出文庫、2006年(単行本初版は1993年)
欲望のあり方を相対化するという意味においてニーチェ主義者である著者は、稀代のスタイリストとして評価が高い。だが、本書を通読して分かるように、物語の語り手としても稀有である。「男らしさ」「女らしさ」(はたまた「日本人らしさ」「〜人らしさ」)のようなものが何の根拠もない薄っぺらな物語に支えられているはずなのだけれど、自らが囚われていることに最も気づきにくいことも確か。なぜなら、身体性の一部になってしまっているから。このロジックをひっくり返し、著者は女性主人公の足の親指にペニスが生えてくるという設定を発明した。ゲーテ先生もびっくり、世の中が裏返って見える永遠の教養小説。