研究部門・研究センター等の紹介

赤外自由電子レーザー研究センター

センター長  理学部第一部化学科 教授 築山 光一 
研究内容 赤外自由電子レーザーの高性能化とそれを用いた光科学に関する研究 
目的 中赤外領域における周波数可変パルス光源である自由電子レーザー(FEL-TUS: Free Electron Laser at Tokyo University of Science)を利用した分子科学の基礎研究を行う 
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【研究成果ハイライト2016】

赤外自由電子レーザー研究センター(略称:FEL-TUS)は、科学研究費学術創成研究による研究プロジェクト「赤外自由電子レーザーの高性能化とそれを用いた光科学」の拠点として、1999 年野田キャンパスに設置されました。自由電子レーザー(FEL:Free Electron Laser)それ自体の開発研究は現在でも多くの研究機関で行われていますが、FEL-TUS は中赤外光源としてのFEL の特長を活かした光利用研究を最重点課題として遂行する数少ない施設の一つです。

FEL 装置の概略を図1 に示します。

図1 赤外自由電子レーザー本体

図1 赤外自由電子レーザー本体

高周波電子銃より生成された電子ビームは、α電磁石でエネルギー分布を調整され、線形加速器へと打ち込まれます。その後最大40 MeV まで加速された電子ビームは、偏向電磁石を通してアンジュレーターへ導入されます。アンジュレーターとは永久磁石(磁極にはSmCo を使用)の薄い板を規則的に張り合わせたものを上下に配置して、正弦波的に変調された磁場を生じる放射光発生デバイスです。アンジュレーター中を加速電子が通過すると、電子は蛇行運動をして接線方向に軌道放射光を発生します。この軌道放射光はアンジュレーター外側両端に設置された一対の金コート凹面鏡内(光共振器と呼ばれる)に蓄積され、電子ビームとの間に強い相互作用を起こさせることによって増幅されます。FEL 光は凹面鏡の直径1 mm のピンホールより出力されます。このようにFEL はレーザー媒質を有さず、その発振原理はレーザー(Light Amplification of Stimulated Emissionof Radiation)、すなわち「レーザー媒質の誘導放射過程を利用した光の増幅」という本来のものとは根本的に異なっています。共振器より射出したFEL 光は実験室までその特性を保持して導光するため、一度平行光に変換され真空中を自由空間モードで伝播させています。

FEL の最大の特徴は、媒質の吸収による発振波長の制限が無く、原理的にはいかなる波長領域でも発振可能であるという点にあります。FEL-TUS は中赤外領域(MIR:Mid Infra Red)専用に設計され、実用的な発振波長は 5 ~10 μm ですが、これは分子の振動運動の吸収周波数帯に相当します。発振の時間構造にも大きな特徴があります。FEL-TUS の繰り返し周波数は5 Hz であり、200 ms 毎のパルスをマクロパルスと呼んでいます。一つのマクロパルスは350 ps 間隔の一連のミクロパルスから構成されます。

FEL-TUS の主な特徴として、

(1) 5 ~ 14 μm において周波数可変であること

(2) ピコ秒パルスを発振する高出力パルス光源であること

(3) ほぼ完全な直線偏光性を有すること

等が挙げられます。

(1)に示したスペクトル領域は、分子内の結合様式の差異によって吸収スペクトルが顕著に異なる「指紋領域」と呼ばれる領域を含んでいます。すなわち赤外自由電子レーザーによって、ある特定の分子のある特定の振動モードを選択的に励起することができます。

(2)の特性によってFEL-TUS は様々な非線形光学効果を誘起することができます。分子に光を照射すると分子は通常一光子を吸収します。しかしながらFEL のように先端出力が高い場合には、一度に複数の光子を吸収する非線形現象が誘起され、これを多光子吸収と呼んでいます。

(3)の特性は、化学結合の配向性つまり表面にどのような分子がどのような空間異方性をもって配列しているかを調べるのに利用できます。

ほとんどすべての分子は中赤外領域に振動励起に基づく吸収帯を有します。したがってほとんどすべての物質を照射対象として設定することができ、FEL-TUS は中赤外励起に後続する現象を様々な分析法を通じて追跡することにより、その用途は先端計測技術開発から分子科学[1]、固体物理学[2]、生命科学[3, 4]まで極めて多岐にわたります。

生命科学への応用のトピックスとして、FEL によるアミロイド線維の光分解効果が見出されました。アミロイド線維は、アルツハイマー病などの難病の原因物質であり、β -sheet と呼ばれる特殊な構造がシート状に重なり合って形成されています。これを通常の生理的条件下で分解することは非常に困難ですが、FEL をアミドI の周波数(6.0 μm)に調整して照射すると、アミロイド線維の構造が解きほぐされて元のネイティブ構造にリフォールディングすることがわかりました。今後、アミロイド線維を蓄積している病理組織へFEL を照射すれば、病気の改善につながる治療効果などが期待されます。

当施設は平成19 年度文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業」【産業戦略利用】に採択されました。平成28 年度からは、放射光施設とレーザー施設間のネットワーク(光ビームプラットフォーム)構築を通じたイノベーション創出を目指すとともに、当研究センターがこれまで培ってきた学術的知的資産およびFEL 光利用の技術的ノウハウを学外に提供することにより、産業界、大学・独立行政法人等への共用を促進し、1.新規計測技術の開発、2.化学・物理学・分子科学分野、3.材料科学・物性科学分野、4.生命科学分野における基礎および応用研究を推進することにより、これらの分野における赤外光利用研究拠点の形成を図っていきます。

本研究センターは他の共同利用放射光施設とは根本的に異なり、レーザー発振時に実験を行うことのできるグループは一つに限られます。したがって多数の研究テーマを設定するよりは、ある特定の研究分野に特化した方が効率的です。今後も分子科学、材料科学、生命科学を微視的観点から追跡する基礎研究を中心に展開し、FEL の特性を最大限に活用した研究を推進していきたいと考えています。

[1] Isomerization and dissociation of 2,3-dihydrofuran (2,3-DHF) induced by infrared free electron laser

M. Matsubara, F. Osada, M. Nakajima, T. Imai, K. Nishimura, T. Oyama and K.Tsukiyama

J. Photochem. Photobiol. A , 322, 53-59(2016)

[2] Visible nonlinear band-edge luminescence in ZnSe and CdS excited by a mid-infrared free-electron laser

E. Tokunaga, N. Sato, J. Korenaga, T. Imai, S. Sato, H. Hamaguchi,

Optical Review , 17(3), 1-5(2010)

[3] Mid-infrared free-electron laser tuned to the amide I band for converting insoluble amyloid-like protein fibrils into the soluble monomeric form

T. Kawasaki, J. Fujioka, T. Imai, K. Torigoe, and K. Tsukiyama,

Lasers Med. Sci. , 29, 1701-1707(2014)

[4] Application of mid-infrared free electron laser tuned to amide bands for dissociation of aggregate structure of protein

T. Kawasaki, T. Yaji, T. Ohta and K. Tsukiyama

J. Synch. Radiation , 23, 152-157(2016)

今後の展開

分子科学や分光学の基礎研究、機能性材料、生体関連分子、表面・界面の物性および動力学の解明を中心に展開し、FEL-TUSの特性を最大限に活用した研究を推進する

センター長より

FEL-TUS は中赤外領域における周波数可変パルス光源として世界的にも極めて特異な位置を占めており、その特徴を最大限に活用すべく現在分子科学、材料科学、生命科学の基礎研究を最重要な研究課題として推進しているところです。当センターが分子科学の研究拠点としてさらに発展するよう、今後も努力していきます。

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