宇宙にちらばる理科の素

身の回りを見渡してみれば、たくさんの不思議があふれている。
特に最後のフロンティアとも言われている宇宙は、まだまだ謎だらけ。
宇宙にはたくさんの「理科の素」が詰まっている!

宇宙は理科なの?

「リカは自然科学だから、身の回りにあるものの基礎となる学問です。なんで風が吹くのだろう?
雨粒の大きさが違うのはなぜだろう? 葉っぱの色が変わるのはなんでだろう? こうした身の回りにある自然界の不思議を解明していくことがリカなのです」

そう語るのは、日本人女性初の宇宙飛行士であり、現在は東京理科大学副学長の向井千秋さん。見上げれば、宇宙が広がっている。宇宙だって、身近な自然のひとつである。手が届く範囲の謎を解くのもリカだが、宇宙の起源や星の色が違うことを解き明かすのも、月や火星探査もリカなのだ。みんなが学んでいるリカの先に、あの宇宙がある。
「目標があれば勉強は楽しいもの。たとえば火星の謎を解き明かしたいという目標から、今やるべきことを具体的に逆算すれば楽しくなります。早い時期に何かをしたいという原動力があるといいですね。ダメだったら目標の修正は何回してもいいし、間違えてもいいんですよ。知識とは、自己実現のために人生を判断していくためのツールに過ぎません。それができたときが、学力が身に付いたときだと思います」

向井さんのように宇宙飛行士になってみたい。そう憧れる人のために、宇宙飛行士になるために必要な能力を教えてもらった。
「ひとつめは、英語とロシア語をツールとしたコミュニケーション能力。語学ができるからといって、コミュニケーション能力が高いとはいえません。日本語がしゃべれてもコミュニケーションが苦手な人はいるでしょ。主張をしながら、相手が言っていることの背景を考え、ディスカッションする力が必要です。

次に、チームワークが発揮できること。NASAは大学の首席だけを採用しているわけではありません。私たちはミッションがあって、宇宙へ行くわけです。少ない人数でも、みんなの力を結集させないといけない世界ですから。

さらには、昔からいう文武両道。自分の体を鍛えることは精神を鍛えることにもつながります。宇宙飛行士でなくても、体が動かないと最後のがんばりは生まれません」

CHIAKI MUKAI 宇宙飛行士にも専門性が必要

そしてもうひとつ。これからの時代に重要なのが専門性。かつて宇宙飛行士は、軍隊などのパイロットが中心だった。宇宙空間に行くこと自体が目的だったからだ。だが次第に、宇宙に行くことだけではなく、そこで何をするか? が重要になってきた。探査や実験などにおいて、幅広い分野の知識が求められた。そのなかには、医学も含まれる。向井さんは医師であり、学生の頃から宇宙飛行士を目指していたわけではなかった。
「宇宙開発にも専門性が必要な時代です。それは宇宙飛行士に限ったことではありません。宇宙計画にコレで参加できるという、得意なものが必要です。私にとって、それは医学でした。もし宇宙に行きたいと思っているならば、その道は“プロ宇宙飛行士”だけではありません。たとえば、最近NASAでは、エデュケーター・アストロノーツというカテゴリーで、教師を宇宙に派遣しています」

宇宙ステーションは完成し、そこでの滞在時間も増えてきた。次第に、“宇宙へ行く”ことよりも、“宇宙で快適に滞在する”ことに重きが置かれるようになってきた。日本の次世代に期待するのは、「滞在技術」だと向井さんは言う。
「日本は天然資源が少ない国。それでも衣食住が充実し、医療のセーフティネットもしっかりしています。これは宇宙ステーションに活かせる技術なんです。たとえば、ゴミの再利用、土地がなくても野菜が育てられる工場のシステム、閉鎖空間での殺菌、光触媒で排水をきれいにすることなど。限られた条件でコンパクトに自立できる、日本の技術が有効なのです。宇宙ステーションならば、まだ物資を持っていくことも可能ですが、月面だとちょっと遠いし、火星なんて完全に自立しないと無理ですから」

宇宙だからといって、宇宙工学を真っ先に思い浮かべるのは、もう古い話なのだ。今はみんなが勉強しているリカのなかにも宇宙につながるものはたくさんあるということ。
「地球だって、宇宙のなかの特殊空間。私たちは宇宙のなかに生きているのです。だから地球開発=宇宙開発といえます。地球と宇宙を分けて考える必要はありません。つまり、地球の身の回りの自然を勉強することが、宇宙を勉強することにつながるのです。まだまだ宇宙は、リカで説明できないことであふれています。そもそもリカとは、“それまでわからなかったことが説明できるようになったもの”の集まりです。だから、宇宙の謎をひとつひとつ解明していくことで、リカというものの裾野が広がっていくのかもしれません」
つまり「リカ」は広がり続けるということ。宇宙のことを必死に考え、勉強していくと、リカという存在そのものを広げていくことができるかもしれない。なんともロマンのある世界だ。

向井 千秋(むかい・ちあき)宇宙飛行士、東京理科大学副学長 日本人女性初の宇宙飛行士。1994年にスペースシャトル・コロンビア、98年にスペースシャトル・ディスカバリーに搭乗した。2015年から東京理科大学副学長を務める。
宇宙飛行士になるための理科的3ヶ条 1.宇宙工学に限らず、これからの宇宙時代に役立つ専門性。 2.コミュニケーション能力と、ミッションのためのチームワーク。 3.文武両道。最後のふんばりが出せる、精神が備わった身体。
火星移住がリアルになってきた!?

2015年にNASAが「火星に液体の水が流れている可能性が高い」という見解を発表した(写真中)。NASAが火星探査機「キュリオシティ」(写真下)を2011年に打ち上げて以来、たくさんの探査写真が送られてきている。そうしたなかでの「水存在の可能性」のニュース。かねてより、火星は映画や小説でも火星人が描かれ、生物がいる可能性が一番高いとされてきた。もし水があれば、その可能性は一気に高まるし、火星移住という未来が現実味を帯びてくる。

実際、火星移住を計画する団体もでてきている。ある団体が希望者を募ったところ、世界中から約20万人の応募があった。そのなかには日本人も含まれるという。そこから24人に絞り込み、2025年から火星移住を開始する計画らしい。しかしこのプランは、なんと片道切符。現在の科学技術では、火星で生活をしていくことは簡単ではないが、こうしたフロンティアスピリッツが、あらたな可能性を切り拓いていくことは間違いない。火星移住が現実になる日が、意外とすぐにやってくるかもしれない。