対談企画

Vol.22010年からスタートする東京理科大学の新しい未来

強い意志と積極性を兼ね備えた学生の台頭に期待
福山副学長
来年、東京理科大学は創立130周年を迎えます。本日は、法人傘下の各大学の学長にお集まりいただき、『2010年からスタートする、東京理科大学の新しい未来』という表題のもとで、思う存分、意見交換をしていただければと思います。
まず、在学生の特徴と教育方針について、藤嶋学長いかかでしょうか? 
藤嶋学長
私は新入生に直接講義をしたいと思い、8学部のガイダンスの最初の1時間、話をさせてもらいました。理工学部の講演では、体育館に約1300人もの学生が集まり、後ろでは立って聞いてくれる学生もいました。最後に「質問をどうぞ」と言うと、ある女子学生の「将来、研究者になりたいと思っています。研究者としてどんな心構えで勉強したらいいでしょうか?」という質問から始まり、見知らぬ大勢の人前で、何人もの学生が手を挙げてくる。この勇気、度胸は素晴らしいと思いました。
それまでの理科大生の印象は、真面目でおとなしいというものでしたが、私はこの時、彼らは強い意志を持っている、と感じました。この積極性を大切に、自分を磨くための方法すべてにわたって支援していきたいと思っています。
建学の理念「理学の普及」のもと引き継がれる理科大の伝統と遺伝子
河村学長
私は諏訪東京理科大学に赴任するまでの20年間、理工学部の教員でしたので、諏訪でも理科大生の特徴や教員の接し方、その根底に脈々と引き継がれている伝統や遺伝子が、強く根付いていると感じました。違うのは、教員と学生との距離がさらに近いこと。教員も学生の名前をほぼ覚えていますし、「しっかりやっているか?」「顔を見ないけれど、どうかしたか?」という会話が日常的になされている。学生たちも廊下で会えば挨拶し、話しかけてきます。諏訪は、非常に緊密なコミュニケーションがある大学であり、その規模で教育ができることが特徴だと思いますね。理科大の理念は『理学の普及』をもって貢献するということですが、それを諏訪、信州の地で実践していることを強く感じます。
塚本学長
「理科大生は真面目でおとなしい」という一面は、確かに昔の特徴だったように思います。学生が積極的になってきたことは、新しい東京理科大学の学生像なのではないでしょうか。藤嶋学長のお話にも共通していると思うのですが、明確な意志を持った学生たちが集まってきているのではないかと。つまり〝志〟が積極性を生んでいるといいますか、理学・工学を学びたいという強い意志、そういう気持ちを今の閉塞的社会状況のなかでもしっかりと持っている若者が集まってきている。その気持ちに応え、能力を存分に伸ばしてあげたいと感じますね。
一方、山口東京理科大学の学生は地味だけれども真面目で芯が強い。どちらのタイプでも、学生と教員が切磋琢磨し、互いの信頼感に根ざした関係を育んでいくことが重要なのではないでしょうか。
こういった時代だからこそ大切にしたい人間関係、それが理学・工学を通して育まれていくのではないでしょうか。よく、教員は昔の感覚で教えようとします。ところが、学生と教員との間にギャップがあるんですね。とくに今は昔と比べると中学、高校までの教育が希薄です。山口では3学科ありますが、もう一度、基礎をきちんとやろうということで、全学科の学生をばらばらに混ぜ、数学と理科と英語を中心にした授業を最初に行っています。基礎的な力を身につけてから、2年生で専門的な学びへと入っていく。大学がきちんとやれば、学生たちもついてきます。
河村学長
諏訪理大も、1年目は小さなクラスに分けて丁寧に導入教育を行っています。『工学と経営学の融合教育』の方針の下、導入としてフレッシュマンゼミという授業を受けさせ、そこでその意識を養います。各学科から集まった学生たちにそれぞれ教員がつき、自分たちで好きなことを考えさせ、研究させていく。それによって、学科を越えた横の交流も生まれていきます。さらに、3年生になると総合演習があり、そこでも3学科から集まった10人程度のグループが、自主的にテーマを決め、研究を進めていきます。すると、自分は太陽光をやりたい、山が近いのでバイオマスをやりたいと、いろんなアイディアが出てくるんですね。環境を大切にする、あるいは新しいエネルギーを作り出すなど、学生たちが自主的に持つ問題意識に、技術面、経営面を付加し、具体的な解決方法への取り組みを学んでいくよう指導しています。
藤嶋学長
基礎学力は大切ですよね。東京理科大学には関門科目があって、1年次、2年次と、本当に実力をつけた学生しか進級させない方針があり、素晴らしい伝統として残っています。馬場錬成先生(本学専門職大学院MIP教授)が書かれた『物理学校』(中央公論新社)の話を新入生にも話していますが、明治30年前後の、当時の東京物理学校の入学希望者は約1000人。そして、卒業できた人は、なんと僅か30人です。本当に実力をつけた者しか卒業させなかった。そして卒業生は全国に散って教育者となり、数学や物理の先生は理科大卒だという伝統ができていきました。 この伝統が今に生きているという素晴らしさは、誇りに思うべきです。入学したら、ところてん方式で全員卒業させてしまう大学が多い中で、この関門科目の伝統は守っていきたいですね。
東京理科大学の誇る最先端研究が世界をリードする学問研究科へ
福山副学長
教育に関しては、東京理科大学創立のときの精神が脈々と生きている。それを実際の行動に移すときは、それぞれの大学で工夫がなされているという状況かと思います。
では、理工系の総合大学として、教育と同じように大きな側面である研究について話題を移していきたいと思います。
藤嶋学長
東京理科大学では、最先端の研究を多く扱っていますが、とくに火災科学関係の素晴らしい設備が文部科学省の推進するグローバルCOEプログラムに採択され、施設も新しくなりました。さらに、国際火災科学研究科が新しくこの4月からスタートしましたので、名実ともに世界をリードする学問教育科になります。火災科学以外にも、いくつかの研究の柱を持ちたいというのが私の希望で、他の先生方にもお願い申し上げています。同時に、学生も優秀で、進学率も高く、マスターまで行く比率も旧帝大並みです。理科大に残りたくても残れなかった人が他大学院に行って喜ばれ、研究に没頭している。ぜひ火災科学以外にも、もっと軸となる柱をいくつか立てて、広げていきたいと強く望んでいます。
塚本学長
山口理大は、まだ所帯が小さいのでそうもいきませんが、それでも、小林駿介先生を中心にした液晶研究所と、戸嶋直樹先生を中心にした先進材料研究所を2つ設置し、すばらしい成果と評判を得ています。山口も大学院に進む学生が3割ほどおり、東京理科大学院や旧帝大の大学院に進みます。その中で、さらに液晶と先進材料のナノが合体した新しい研究に取り組んだり、文部科学省の知的クラスターの一環として、企業と山口理大、近隣の大学との共同研究にも力を注いでいます。このように地域と共同で、かつ少人数で集中して研究を進めることのできる環境を生かして、さらに発展させていきたいですね。
地域に密着した産・学・官連携に重要な役割を担う学生
河村学長
諏訪は、地元の中小企業が地域活性化へ向け活発に活動しているところです。また、行政も熱心で、地域と連携した研究が多いですね。例えば、諏訪に多い精密機器関係の加工や、恵まれた環境を生かした環境ツーリズムなど、進んでいる事例も多々あります。経営情報学部では、「そば」の販路拡大の研究など、地域に密着したユニークなものも出てきています。自分たちが研究を進めていると、地元の方から声がかかって協力体制がスタートし、それを地元のメディアが発信していく。すると再び新しい案件が大学に依頼されてくる。そんなサイクルです。
具体的には、例えば農業用の着色ネットの研究です。畑の野菜の上に着色したネットやシートをかぶせて光の波長を変えると農作物の生育がよくなるという研究成果が出てきました。するとそれを聞いて関心を持たれた地元企業があって、ネットやシートを生産してくれたのですね。それを地域の農場で試して良い結果が出たので、最近実用化にまでこぎ着けました。この例のように、諏訪理大では、地元企業との協力の下に、研究成果を実際に役立てるところまで踏み込んで取り組める土壌があります。
地域との密接な信頼関係はもちろんですが、学生たちが重要な役割を担っているんですね。専門の先生と共に研究を行う中で、自分たちもしっかりやっていこうという意識が芽生えると、学生も成長しますし、仕事も進みます。
藤嶋学長
地域に密着した取り組みの成果ですね。私は入学式の後、基礎工学部生と共に長万部に同行してたいへん感銘を受けました。長万部の町に入ったときに花火が上がりその花火を合図に、町の方々が大勢、玄関や門のところに出てきて歓迎の旗を振ってくれるのです。心配で同行された父母の皆さんも、予想以上の歓待に、感動で泣き出す方もおられました。入寮式も町長、商工会議所の会長、教育長など町の名士が全員集まり、地元で採れた帆立貝やジャガイモ料理で歓待されました。美味しさもさることながら、人の温かさに感動します。理科大の理想的な学びの一面が出ていると思いますね。
塚本学長
私が3年前学長に就任したときは、まだ地元との関係が非常に希薄で、その改善に苦労しました。まずは、地元市の役員、県の役員、企業の方に来ていただき、どういう人材を求めているのかご意見をうかがいました。山口県には素材関係の工場が多く、大企業が多い。彼らの研究はもちろん最先端ですから、彼らの研究につながる学科を、ということで、従来の学科を機械工学科と電気工学科、応用化学科に改編しました。また地元の企業経験者に教員として参加していただいてます。
そのほかにも、山口で育った人を山口近辺に就職させる運動も進めています。この、「山口理大に進めば地元に残れる」というサイクルづくりには、多くの方から賛同をいただいています。もともと地元県立大学はあるけれども、理科系ありませんでした。ならば、一緒にやりましょうという話もあり、地域のキーパーソンを育てるという運動として発展しています。
さらには、理科系の教員免許をとれるようにしたいという希望もあり、県立大学等と連携してカリキュラムを組むところまでこぎ着けました。
福山副学長
確か、山口県立大学、山口学芸大学そして山口理大が一緒になって、文部科学省から「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」に認定されましたね。お話に出たように、三つの大学それぞれに得意分野が違うわけですから、連携してうまく補い合うというのも、地域の特性、特徴を睨んだ少子化時代の大学の好例ですね。
河村学長
諏訪理大では、社会人大学院生の受け入れを積極的に行っています。彼らは地域と強いネットワークを形成していますから、最初は敷居が高いと感じている人たちも、徐々にアクセスしてくれます。地域と大学の交流は、多面的に展開する必要がありますね。
藤嶋学長
東京理科大学が新たに開設する葛飾キャンパスも、葛飾区が期待しているという点では、山口、諏訪の事例が参考になると思います。葛飾キャンパスの周辺には三菱ガス化学の研究所などもありますから、中小企業の方と実践的な開発案件に取り組みながら、一方で大企業の先端研究について共同研究を行うなど、葛飾キャンパスは多面的に取り組める拠点になりそうです。
東京理科大学の国際化へ向けた環境整備と教育システムの構築を
福山副学長
3大学とも実質的な活動を地域で展開されているようですが、もう少し視野を広げて、最後に国際化についてのお考えをおうかがいしたいと思います。
藤嶋学長
国際化は大きな課題です。今年1月末に東京で日本・中国間の学長会議が開催され、日本、中国からそれぞれ五十大学の学長が集まったシンポジウムがありました。東京理科大学も参加し、福山先生には、本学を代表するパネリストとして素晴らしい発表をしていただきました。
ただ、残念なことに東京理科大学は留学生が少なすぎます。現時点で128人。他の同レベルの大学では約1000人、早稲田大学は3000人、東京大学は2500人です。それに対して本学は少なすぎるので、ぜひ国際化を進めたいと感じています。そのためにも、神楽坂キャンパスあるいは葛飾キャンパスの近くに留学生用の宿舎を作ってほしいとお願いしています。とくに、中国、韓国、インドなどをはじめとするアジア諸国からも積極的に学生を受け入れ、共同研究をやり、自国に戻ってその輪を広げていただきたいと思います。
河村学長
諏訪理大の環境は少し違いますが、大きな目で世界を見ると、日本の人口が減る一方で、増えてくる国があるわけです。そういう国の学生に来てもらうことは、われわれにとっても大切です。それには、彼らの財力だけでは難しい面もあるでしょうから、支援する仕組みを作らないといけませんね。
塚本学長
宿舎や設備もさることながら、教育システムをしっかり考えないといけません。政治や経済で国同士が喧嘩になったとしても、教育で結ばれた関係は、まずそういうことにはなりません。人を育てること。このことに関して日本が今まで培ったノウハウを伝え、アジアの人たちに国に帰ってもらい、人的なネットワークをつくっていってもらう。留学生たちも科学技術を身につけて帰れば、必ず自国のリーダーになっていきます。そういう人のつながりこそが大学の国際化だと思います。また、理科大生たちの国際化も必要だと感じています。最近、インターネットで情報が簡単に手に入るからかもしれませんが、学生たちはなかなか海外に行こうとしない。ならば、海外から学生を集め、学生たちの交流の中で外国の文化、歴史を学ばせていくことも必要でしょうね。
福山副学長
今日はいろいろなお話いただきましたが、大学のこれからの大きな発展を祈念して鼎談を終わりにしたいと思います。また別の機会に、絞ったテーマで開催したいと思います。ご協力ありがとうございました。

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